遺言代用信託とは?
「遺言信託」や「遺言代用信託」という言葉を耳にされたことはありませんか?どちらも同じように思えるかもしれませんが中身は全く違います。
「遺言信託」は信託銀行などが行っているサービスで、遺言作成のサポート及び亡くなった後は遺言執行をするというものです。信託という言葉が含まれていますが、信託の仕組みは使われていません。
一方の「遺言代用信託」は遺言の代わりに用いられる信託で、信託の仕組みを使い財産の承継する内容を決めておくものです。
いずれにしても信託という言葉にとっつきにくさを感じる方が多いと思いますが「遺言代用信託」では便利で画期的な財産の渡し方が可能になります。
例えば、相続人の無駄使いが心配なら・・・
遺言では一度に全額を渡すことしかできませんが、遺言代用信託では毎月20万円ずつというように決めておいた金額を定期的に渡すことができます。注)ここではある信託会社のサービスを前提にご紹介します。
信託とは信頼できる第三者に財産を預けて管理してもらう制度です。「遺言代用信託」の仕組みは、信託会社との信託契約とあわせて信託会社に財産を預けます。この信託契約書の中で相続財産を誰にどのように承継させるかを決めておきます。これが遺言の代わりになります。
財産を預ける人を委託者、信託会社を受託者といいます。登場人物には他に受益者がいて、受益者は相続人です。シンプルにいえば委託者が亡くなった時に受託者が預かっていた財産を受益者に引き渡すという仕組みが「遺言代用信託」です。
「預ける」という表現をしていますが、形式的に財産の所有権が信託会社に移転します。その代わりに預けた財産を取り戻す権利や財産から得られる利益を受け取る権利などを含んだ信託受益権という権利を委託者(受益者)が取得します。
遺言と違い財産を事前に預けてしまうのは、自分の手元で財産を管理できないから不安だという方もいるでしょう。
遺言は「この口座は長男に、この口座は長女に」というように口座を特定して記載することが多いですが、亡くなった時には既にその口座を解約していたり、口座はあっても残高がなくなっていたり、遺言を作成した時の思惑とは違う結果になることがあります。
遺言を書いたことで現実の行動が遺言内容に拘束されるわけではないので、定期的に遺言の内容を見直ししなければそういう事態も起きてしまうのはしょうがないわけですが、「遺言代用信託」は一旦財産を信託会社に預けるため、そういった心配がありません。
また、預かった財産は運用せず管理するのみなので損失もありません。亡くなるまで相続財産を他の目的に使わないように管理してくれるのが「遺言代用信託」とも言えます。
遺言ではできそうでできないことが可能になる、かゆいところに手が届くのが「遺言代用信託」なのかもしれません。
遺言と比較して簡単に相続手続きができるといわれている遺言代用信託はいくつかの金融機関から商品が提供されています。
- ずっと安心信託
- 家族おもいやり信託
- マイトラスト 未来安心図
ある書籍に「ずっと安心信託」、「家族おもいやり信託」、「マイトラスト 未来安心図」が遺言代用信託として横並びで紹介されていましたが、細かく見ていくとそれぞれに特徴があることがわかります。
ずっと安心信託|三菱UFJ信託銀行

信託財産の受け取り方は3つあって、3つの受け取り方を組み合わせることもできます。
- ①自分用の定時定額受け取り
- ②家族用の一時金受け取り
- ③家族用の定時定額受け取り
契約した人が亡くなった場合、受取人に指定されている家族が簡単な手続きで一時金を受け取れることが遺言代用と言われる所以です。例えば、葬儀費用に相当する金額を一時金として預けておくことで、相続が発生した時にすみやかに受け取ることができるという仕組みです。
終活読本ソナエの記事によると、利用できる金額の最低額が当初の500万円から300万円に引き下げられたことが契約増に結びついた理由だそうです。元本保証ということ、それから管理手数料・振込手数料がかからないのも魅力ですね。
簡単な手続きといっても、具体的にはどのような手続きで一時金を受け取ることができるのか、気になりませんか?
「ずっと安心信託」では、相続が発生した後、次の3つの書類等があれば、すぐに一時金を受け取ることができます。
- ①医師の死亡診断書(または除籍謄本等)
- ②ずっと安心信託の通帳
- ③受取人の本人確認書類+受取人の印鑑(他にもバリエーションがあるようですが、いわゆる受取人の本人確認ができる書類等)
①は契約者が亡くなったことを確認するための書類です。除籍謄本を取得するには、死亡届を出してから1週間ぐらい見ておく必要があるので、急を要するなら死亡診断書の方がいいかもしれません。でも死亡診断書というと、死亡届と一枚になったものをイメージしてしまいますが、死亡届は役所に提出するのでそのコピーでもOKなんでしょうね(違うかな?)。
実際のところは、とりあえずは葬儀費用を立て替えて支払っておいて、除籍謄本を取得してから一時金を受け取るという流れが多いのかも。遺言代用信託が遺言と比べて手続きがどのように簡単(スムーズ)かというと、信託口座だからこそ一旦口座が凍結されることなく一時金を受け取ることができることでしょうね。
それから、遺言の場合は作成すること自体を手間と感じて、遺言代用信託の契約をする方が簡単だという理由もあるのかもしれません。例えば、検認を受けなければいけない自筆証書遺言の場合はまたひと手間かかってしまうからです。
「ずっと安心信託」では200万円~3,000万円の範囲内で、②家族用の一時金受け取りと③家族用の定時定額受け取り金を自由に決めることができます。ただし、受け取る金額が他の相続人の遺留分を侵害しないように配慮する必要があります(信託といえどもその点は同じです)。
パンフレットをよく読むと、保有している金融資産の3分の1までは設定することが可能なようです。受取人は1人しか駄目ということはなく複数でもOKのようです。縛りがあるのは、受取人は契約者の相続人の中から指定する必要があるということ。
これは相続人である子供がいる場合に孫を受取人にすることはできないということになるんでしょうか?となると、相続人以外に遺贈したい場合には利用できないのかもしれません。
それから預けることができるのは金銭だけなので、不動産の相続に活用することはできません。
それにしても表紙に書いてある「ふやすことだけじゃない もっと大切なことがある」というメッセージがいいですね。思わず心を動かされるフレーズだと思います。
家族おもいやり信託|三井住友信託銀行

三井住友信託銀行の「家族おもいやり信託」は2つのタイプがあります。
- 一時金型
- 年金型
「ずっと安心信託」は、1つの契約の中での3つの受け取り方を組み合わせることができましたが、家族おもいやり信託では「一時金型」と「年金型」はそれぞれ別の契約のようです。
また「一時金型」と「年金型」のどちらも相続が開始したあとに受け取ることができるもので、ずっと安心信託の①自分用の定時定額受け取りに相当するものはありません。
遺言代用信託の主なニーズは、家族の当面の生活費や葬儀費用を相続の手続きに比べて簡単にすみやかに受け取ることができるようにというところだと思うので「一時金型」に着目してみます。
一時金型の申込金額は、100万円以上500万円以下で1人1契約までで信託財産の受取人は法定相続人の中から1人を指定します(「ずっと安心信託」が複数を指定できるのとは異なります)。管理報酬はかかりませんが、運用報酬は必要になるみたいですね。
マイトラスト 未来安心図|りそな銀行

りそな銀行の「マイトラスト 未来安心図」には3つのタイプがあります。
- 未来安心図Ⅰ
- 未来安心図Ⅱ
- 未来安心図Ⅲ
未来安心図Ⅰ
未来安心図Ⅰは契約者自身が信託財産を受け取るもので、目的コース、分割コース、一括コースといった受け取り方を選択することができます。
契約者が死亡した時に契約が終了し、一般的な相続の手続き(遺産分割協議もしくは遺言による指定)が必要になります。資産の承継先を指定するものではないので、未来安心図Ⅰは遺言代用信託とはいえないのでは?と思います。
未来安心図Ⅰは「ずっと安心信託」における「①自分用の定時定額受け取り」に相当するようですが、委託者(契約者)の代理人を指定することができるので、例えばお子さんを代理人にしておけば、お子さんが契約者に代わって老人ホームの入居一時金を受け取ることができます。
また、契約内容を変更する場合などにあらかじめ同意者を決めておくことで、契約者が大きな失敗をしないようにサポートしてくれる人を指定することができる点に特徴があります。
未来安心図Ⅱ
未来安心図Ⅱは、契約者が亡くなった時には契約者が決めておいた受取人が信託財産を一括や分割で受け取ることができるものです(契約者が亡くなるまでは未来安心図Ⅰと同様の内容のようです)。
「ずっと安心信託」、「家族おもいやり信託」とは異なり、受取人は法定相続人の中から選ばなければいけないという制限はありません(パンフレットからはそう読み取れました)。
受取人が亡くなった時に、未来安心図Ⅱの契約は終了となります。その時に残っている財産があれば受取人の財産として一般的な相続手続きを行うことになります。
未来安心図Ⅱでは、次のように契約者Aが亡くなった時は契約時に指定した受取人Bが信託財産を受け取ることができます(遺言代用信託)。一方で受取人Bが死亡したときは一般的な相続手続きが必要になります。
- 契約者A→信託契約に基づいて承継→受取人B
- 受取人B→一般的な相続手続きに基づいて承継→C
未来安心図Ⅲ
未来安心図Ⅱの契約が終了した時(受取人Bが死亡した時)に、その後の信託財産の行方までも契約者Aが決めておけるものが、未来安心図Ⅲです。
未来安心図Ⅱであれば、受取人Bが死亡した時は受取人Bの財産として一般的な相続手続きをすることになりますが(遺産分割協議もしくは受取人Bの遺言による指定)、未来安心図Ⅲなら受取人Bから誰が信託財産を引き継ぐかを受取人Bではなく、契約者Aが例えば 「契約者A→受取人B→受取人C」と決めることができるというものです。
パンフレットには活用場面として、「受取人Bが遺言を作成することができない」、「先祖から承継した資産をいずれは本家一族(受取人C)に引き継がせたい」というように、契約者Aが次の次の世代まで財産の承継先を決めておきたい場合が紹介されています。
ということで、未来安心図Ⅲは、信託という仕組みを使い「自分が死んだら全財産を長男Aに相続させるが、次に長男Aが死んだ場合は、残った財産を長男の妻Bに承継させる」といった「後継ぎ遺贈」を可能にしたものなのです。
未来安心図Ⅲ|法律・税制上の取扱い
未来安心図Ⅲについては、Ⅰ・Ⅱとは別物という扱いのようで、Ⅲを利用する方に注意を促す「法律・税制上の取扱い」というページがパンフレットに用意されています。
留意点としては「遺言等で本信託を変更することができないこと」 、「本信託は遺産分割協議の対象ではないこと」です。

税制の取扱いについては、 受益権の移転はその都度、相続税の課税対象になるため信託契約によって財産を承継したとしても(現在の税制では)相続税対策にならないということが書かれています。

このようにページを割いて書いてあるというのは、信託というあまり耳慣れない契約なので、「もしかすると相続税対策になるのでは?」という期待をもたれる方が多いのかもしれませんね。
未来安心図の費用
最後に。未来安心図は「ずっと安心信託」、「家族おもいやり信託」と異なり、管理報酬等がしっかりかかります。
定例管理報酬は年間12万円、契約締結時報酬・追加時報酬は信託元本に応じて1~3%の報酬が必要になります。当初信託金額もⅠ・Ⅱは1,000万円以上、Ⅲは3,000万円以上と最低額が高額な点も他の2つとは異なります。
※パンフレットから読み取れた情報のみで書いたものです。勘違いしている部分があるかもしれませんので、その点はご理解ください。
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司法書士・行政書士 伊藤 薫