【相続クイズ】 遺言がないと問題が起こりそうな人は?
遺言がなくても特に問題が起きないご家庭がほとんどだと思いますが、中には遺言を書いておかないと心配だなと思ってしまうケースがあります。
突然ですが、ここでクイズです。遺言を書いておかないと問題が起こりそうなのはどのケースでしょう?
- 愛人との間に子供がいる○○さん 【ケース①】
- 再婚していて前妻・前夫との間に子供がいる○○さん 【ケース②】
- 内縁の妻・夫がいる○○さん 【ケース③】
- 亡くなった子供の妻・夫の世話になっている○○さん 【ケース④】
- 相続人の仲が悪い・疎遠な○○さん 【ケース⑤】
- 相続人が高齢の○○さん 【ケース⑥】
- 子供がいない○○さん 【ケース⑦】
- 配偶者に連れ子がいる○○さん 【ケース⑧】
正解は、①から⑧の全部です。予想通りでしたか?
①から③は、遺言を書いておいた方がいいと迷わず思った人がほとんどかもしれませんね。
④は養子縁組をしていなければ、お子さんの配偶者(子供の妻・夫)は相続人にはならないので、財産をあげたければ遺言を書いておく必要があります。
⑤は相続人の仲が悪いと揉めてしまう可能性は高いでしょう。遺言の内容によっては火に油を注ぐ結果になりそうな気もします。
⑥は急速な高齢化に伴い、遺産分割協議をするための判断能力・意思能力が十分でない相続人が増えています。こういったケースは成年後見制度を利用して遺産分割協議をはじめ各手続きを進める必要があります。
⑦は一見すると、相続人は配偶者だけで問題は起こらないように思うかもしれませんが、子供がいない場合の相続人はこうなります。
- 配偶者と被相続人(亡くなった方)の両親もしくは祖父母
- 配偶者と被相続人(亡くなった方)の兄弟姉妹
お子さんのいないご夫婦は配偶者と両親もしくは祖父母(直系尊属といいます)、兄弟姉妹が相続人になります。
どうでしょう?問題は起こらなそうですか?配偶者の両親だけでなく兄弟姉妹とも仲良くやっているから私は大丈夫と考える人も多いかもしれませんが、配偶者あってこその関係でしょうし、相続はお金の話という一面もあります。
そもそも揉めるかどうか以前に、家族の相続の話に他人が入ってくるような感じがしませんか?
お子さんがいないご夫婦は絶対に遺言を書いておくべきだと思います。特に財産はありませんでしたが(苦笑)、僕も子供が生まれる前から遺言を書いていました。
⑧は長年親子のように生活をしていたとしても養子縁組をしていなければ、自分と配偶者の連れ子には戸籍上のつながりがないので連れ子は相続人にはなりません。
取り上げた①から⑧のケースは、一般的に問題が起こる可能性が高いというだけで遺言がなくても特に問題なく遺産分け手続きができる場合がほとんどかもしれません。大事なことは思い込みで判断しないこと・面倒くさくなって考えることを諦めないこと、正しい知識をもとに遺言を書くかどうかを決めることです。
ここからは具体的な事例を取り上げて遺言を書いておいた方が良い理由を解説します。
再婚していて前妻・前夫との間に子供がいる○○さん
事件簿|父の死後、異母兄弟が現れた
父の死後、異母兄弟が現れた
父が亡くなって数カ月したころ、突然父の子供と名乗る男性から連絡がありました。その男性は、父と前妻との間の子供だそうで、私とは異母兄弟の間柄ということになります。
私には、父と母が再婚だったことも初耳でしたが、男性は「自分にも父の遺産を受け継ぐ権利はある」と主張しているため、話し合いは簡単にはまとまりそうにはありません。

突然告白すると何も知らない子供達を困惑させてしまうのでは?とためらわれる気持ちは理解できます。一方、お子さんの立場で考えると不意打ちをくらうのと知っているのでは雲泥の差でしょう。
中には前婚での子供は相続人にならないと誤解されている方もいるかもしれませんので、くれぐれもご注意ください。
事件簿|時効を狙おうか?
現在の結婚と前婚のどちらにもお子さんがいらっしゃる方から遺言作成のご相談を受けたときのことです。
前婚でのお子さんに遺留分があることや遺留分の時効について説明をさせていただいた後で、その方がひと言・・・
「とにかく10年間経ってしまえばいいんやね。時効を狙おうか」
間髪入れずに同席されていた奥様に向かって「冗談やで」とおっしゃったのですが、その方の目は笑ってなかったので、この人は本気だなと思った記憶があります。
ご相談だけだったので遺言を書かれたのか?どんな内容の遺言を書かれたのか?は知る由もありませんが、一か八かの相続対策は危険です。始めから時効を狙おうなどと考えるのは止めてください(苦笑)。
生前にご家族に伝えることが難しいなら、残されたお子さん達にわだかまりを残さないように各相続人に配慮しつつ、それぞれの遺留分を確保できるような内容の遺言を準備しておくことをおすすめします。また遺言で非嫡出子を認知することができます。
内縁の妻・夫がいる○○さん
事件簿|ドラマチックなエンディング
ある雑誌の「らしさのある葬儀」という記事で、俳優の故宇津井 健さんのドラマチックなエピソードが紹介されていました。
亡くなったその日に婚姻届を提出。こんな劇的な終活が明らかになった。
・・・中略・・・
病床で相手の女性に「僕の妻として、お葬式の喪主をしてほしい」と言い残したという。
らしさのある葬儀
お相手の女性とは事実婚状態だったそうです。事実婚では相続人にならないので、婚姻届には自分の妻として財産を受け取って欲しいというメッセージが込められていたのでしょうか?間に合わない場合も想定して相手の女性に財産を遺贈する内容の遺言も準備されていたのかもしれません。
いずれにせよ、なかなか真似のできないドラマチックなエンディングで最期までスターだなと感心してしまいました。
ただし、見方を変えればドラマチックというよりも間一髪と言った方が適切かもしれないので、前もって遺言を書いておく方がベターだと思います。終活や相続対策はむしろ平凡すぎるくらいでちょうどいいのかもしれません。
比較するのは適切ではないかもしれませんが、もし婚姻ではなく養子縁組だった場合。
相続税の計算にあたって、相続人の数に応じた基礎控除があるので、相続人が増えれば課税遺産総額が少なくなり相続税額が減少します。ただし、国税庁のホームページを見ると次のような記載があります。
法定相続人の数に含める被相続人の養子の数は、一定数に制限されています。
参考:No.4170 相続人の中に養子がいるとき
(1)被相続人に実の子供がいる場合 一人までです。
(2)被相続人に実の子供がいない場合 二人までです。
ただし、養子の数を法定相続人の数に含めることで相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合、その原因となる養子の数は、上記(1)又は(2)の養子の数に含めることはできません。
なんだか気になることが書いてありますよね。例えば被相続人が亡くなる直前に養子縁組をしたことが「相続税の負担を不当に減少させる結果となる」と認められる場合には、相続人の数に応じた基礎控除の計算にその養子を含めることができないということです。
あくまでも相続税の計算に関してだけで、養子縁組自体が否定されるという意味ではありませんが、宇津井式のようなドラマチックなやり方だと養子縁組に関しては誤解を招くことがあるかもしれません。
事件簿|同じ日に作られた2通の遺言
お子さんのいないご夫婦がお互いにすべての財産を相続させるという遺言を作られることがありますが、この遺言を作られたのは二人の男性でした。

遺言の作成に関わっていなかったので詳細はわかりませんが、いまになって思えば同性カップルの方だったのかもしれません。
Aさんが亡くなったときに、僕は遺言執行者として遺言の内容通りにAさんの遺産をBさんに引き継ぎさせていただきました。大阪府などパートナーシップ宣誓証明制度のあるところがありますが、遺言がなければBさんに遺産を渡すことができなかったので遺言を作られていて良かったと思えたケースです。
亡くなった子供の妻・夫の世話になっている○○さん
- マイホームの頭金を出してもらった
- 同居して親の面倒をみてきた
- 介護をした etc

親子間には様々な支援があることが多いと思います。相続人が子供だけなら原則は各相続人が同じ相続割合で相続することになりますが、こういった支援を理由に兄弟間の不公平感を相続を機に解消したいと相続割合を変更する主張をし出すと、話し合いは簡単にはまとまらないでしょう。
相続人であるお子さんが先に亡くなってしまいお子さんの配偶者から介護などの世話になっていて、その配偶者に財産を渡したいと考えている方もいると思います。この場合は遺言に書いておかなければその配偶者は何も財産を受け取ることができません。
長年介護をしてきたようなケースは負担が大きいことから感情的になりやすく、些細なことで大きなトラブルになりかねません。不公平感を完全に解消することはできなくても相続人が納得しやすい内容の遺言を準備しておくことは有効です。
相続人の仲が悪い・疎遠な○○さん
事件簿|兄が行方不明で手続きができない
兄が行方不明で手続きができない
先月父が亡くなったため、相続手続きのために兄と連絡を取ろうとしましたが、兄とはもう5年以上音信不通でしたので、連絡がつかず、どこに住んでいるのかも分かりません。父の口座から母の生活費をおろそうとしても、金融機関から相続人全員の押印等が求められるため、それすら出来ません。

相続人の中に行方の分からない方や連絡がつかない方がいても、遺言がなければその方を除外して相続手続きを進めることはできません。
どうしても見つからない場合は、行方不明の相続人のために不在者財産管理人の選任を家庭裁判所に申し立てて、遺産分割協議は不在者財産管理人と行わなければなりません。
しかも、行方不明の相続人の不利になるような遺産分割協議を行うことはできず、原則は行方不明の相続人の法定相続分を確保するような内容の遺産分割をすることになります。
相続人の中に何年も音信不通の方がいる場合、このような遺言を作成しておくと安心です。
- 子供等の遺留分がある相続人であれば、将来連絡がとれるようになって他の相続人に相続分を要求されても不都合のないように、最低限の遺留分を確保した内容の遺言
- 遺留分のない兄弟姉妹が相続人の場合は、その方を除外した相続内容の遺言
遺産分割協議は全員が集まってしなければならないわけではありませんが、昨今のコロナ禍では思うように移動することができないので、相続人が海外に住んでいるケースでは遺産分割協議に非常に時間と手間がかかることが考えられます。
手続きに時間と手間がかかりそうな場合は相続人の負担を減らすために遺言を作っておくことが有効です。
相続人が高齢の○○さん
事件簿|認知症で手続きができない
高齢の母が認知症で手続きができない
父が亡くなりました。遺言がなかったため相続人である母と私と弟で遺産分割協議をしなければいけませんが、高齢の母は数年前から認知症の疑いがあり、手続きを進めることができません。

相続人が認知症のため遺産分割協議をするための判断能力・意思能力が十分でないと判断されれば、成年後見制度を利用して遺産分割協議をはじめ各手続きを進める必要があります。
こういったケースは年々増加しています。こうした問題を回避するためには遺産分割協議をしなくてもいいように遺言を準備しておくことが有効です。
子供がいない○○さん
事件簿|妻に全財産を遺したつもりが・・・
妻に全財産を遺したつもりが・・・
私たち夫婦には子供がいません。両親が早くに亡くなっていたため、親せき付き合いもあまりなく、私にもしものことがあった時には、特に準備をしておかなくても自宅をはじめ財産はすべて残された妻のものになると思っていました。
ところが、私の死後、妻は法定相続人である私の姪から法定相続分を要求されて困っています。今のところ他の相続人である私の兄や甥からは、相続分の要求はありませんが、私名義の預金を引き出すためには、金融機関から相続人全員の押印等が求められるため、相続手続きはすんなりとはいかなさそうです。

被相続人に子供がいない場合、配偶者と直系尊属(親や祖父母)が相続人になります。直系尊属が亡くなっていれば配偶者と兄弟姉妹が相続人になります。被相続人より先に亡くなっている兄弟姉妹がいれば、その子供が相続人になります(代襲相続)。
いくら疎遠であっても兄弟姉妹(甥・姪)も配偶者とともに相続人になります。
急速な高齢化や平均寿命が伸びたことで亡くなる方の多くが高齢者になっています。高齢の方が亡くなった場合は直系尊属(親や祖父母)は既に亡くなっていることが多いので兄弟姉妹が相続人になる可能性が高いでしょう。
こうしたケースでは相続人どうしが疎遠だったり人間関係が複雑な場合も多く、遺産分割協議が難航した挙句に放置されることもあります。
兄弟姉妹には遺留分がないため「妻に全財産を相続させる」という内容の遺言を作っておけば、全ての遺産をスムーズに奥さんに引き継ぐことが出来ました。
配偶者に連れ子がいる○○さん
自分は相続人だと思っていたのに、実はそうじゃなかったということが起こるのがこのケースです。
事件簿|私は相続できないの?
私は相続できないの?
私の母は、私が小さい頃に義父(Jさん)と再婚しました。私は、義父を実の父のように思い母が亡くなった後も病気の義父と同居して、看病してきました。
ところが、義父が亡くなってから相続手続きのために戸籍を取り寄せてみたところ、義父と私は養子縁組をしていなかったために、戸籍上はまったくつながりがなく、全ての財産は、法定相続人である義父の姪が相続することになりました。

長年親子のように生活をしていたとしても養子縁組をしていなければ、自分と配偶者の連れ子には戸籍上のつながりがないので連れ子は相続人にはなりません。
相続で連れ子に財産を渡したいと考えるのであれば、子連れで再婚をしたら自分と血がつながらない子の養子縁組をしておくことが必要です。遺言で法定相続人以外の方に財産を遺すことも出来ます。
事件簿|養子縁組は慎重に
相続税の節税を目的にした養子縁組というのは富裕層では一般的に行われているので、いまさら感もありました。はじめは国と相続人間の争いかなと思いましたが、「相続税の節税を目的にした養子縁組は有効か、無効かが争われた裁判」について調べてみると争っていたのは国と相続人ではなく、相続人同士でした。
節税になるなら相続人全員にメリットがありそうなのに、相続人間で争いになるのはなぜなのか?
この裁判の被相続人(亡くなった方)には3人の子供がいました。そして長男の子供と被相続人が養子縁組をしていて、二人の妹がこの養子縁組の有効性を争うという裁判でした。
そもそも養子縁組をすると節税になる理由は、相続人が増えることで相続人の人数による基礎控除の額を増やすことができるからです。一方で、被相続人の相続税額を減らすと同時に各相続人の法定相続分は減ってしまいます。
ということは、全体として節税になっても兄弟姉妹の家族単位でみると取り分に差が出ることになります。
仮に3人の子供にそれぞれ子供がいたなら3人の子供達がそれぞれ自分の子供を被相続人の養子にすれば良かったのではないか?というアイディアが浮ぶかもしれませんが、実子がいる場合は、養子は1人、実子がいなければ養子は2人しか相続人の人数に応じた基礎控除の対象にならないので、残念ながら養子を3人にしても3人分の節税効果は期待できません。
被相続人の亡くなった時期からすると法定相続人ひとりあたりの基礎控除額は1,000万円ですが、最高裁までの裁判費用などを考えると、実質的な節税効果はどのくらいあったのか非常に気になるところです。
それぞれが養子縁組をせずとも遺産分割協議の中で兄弟姉妹間の取り分を調整する方法もあるわけですが、もはやそういうことができる状況ではなくなってしまったんでしょう。
まわりの理解・協力なくして相続人のひとりが主導する節税対策は、まわりから良くやったと評価されることはなく、出し抜かれたという思いが生まれることがほとんどかもしれません。そして結果的にあまり節税効果を生まないばかりか、兄弟姉妹の関係が修復できないこともあることが浮き彫りになった事例だと感じました。
仮に子供が1人の場合はどうでしょう。

親(被相続人)と子供の配偶者が養子縁組をするケースなら揉める可能性は低いと思うかもしれませんが、子供とその配偶者の夫婦の関係が悪化すれば離婚による財産分与だけではなく、相続人として遺産分割協議をしなければならないなどのまた違った問題が起きる可能性があるわけで、節税対策は考え出すと本当に難しいですね。
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司法書士・行政書士 伊藤 薫