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遺留分を無視して書いた遺言の本当の恐ろしさ

ご相談を受けていて感じるのは「遺留分(いりゅうぶん)」という言葉はみなさんよくご存知だということです。テレビ・雑誌等で相続・遺言の特集が組まれることが多いからでしょうか。

遺留分について何も考えずに書いたとしても遺言としては有効ですが、遺留分侵害額請求を受ける可能性があるので必ずしも遺言の内容通りになるとは限りません。

また相続人に遺留分があっても取り戻すかどうかは相続人の意思に委ねられているので、必ずしも遺留分を主張されるわけではありません。

相続事件簿|遺留分を無視して書いた遺言の本当の怖さ

はじめに遺留分がどういうものかについて解説します。後半は悲惨すぎる結果を招いた遺言の事例をご紹介します。

遺言を書かなければ法定相続分を主張されるのだから遺留分を無視して遺言を書くこと必要があることも理解できますが、友人の相続で起きた悲惨すぎる話を聞いてから遺留分に対する考え方が大きく変わりました。

【Aさん】

私の父は、兄夫婦と折り合いが悪かったため、長女である私が同居して面倒をみてきました。

父は長年面倒をみてきた私に全財産を相続させるという遺言を遺したため、父の死後、兄から遺留分(遺産の4分の1)を主張されて、最終的に裁判で争うことになってしまいました。

兄が遺留分を主張

遺留分は兄弟姉妹を除く法定相続人に認められている絶対的な相続財産の受け取り分のことです。

Aさんのケースは相続人が子供2人だけなので、遺産の1/2を相続人の数2で割った1/4がお兄さんの遺留分です。

遺留分侵害額の請求をするかどうかは本人の自由です。

遺留分侵害額請求権は、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年又は相続開始の時から10年を経過したときに時効によって消滅します。

遺留分を無視して作成した遺言は有効ですが、遺留分の取戻しが裁判等のトラブルになる可能性があります。遺言を書くときは遺留分のある相続人に配慮することも大切です。

長年面倒をみてくれた子供に全財産を譲りたいという気持ちはよくわかります。それに、遺留分を無視した遺言も有効ですが、遺留分の取戻しが裁判に発展して、ときに悲惨な結果を招くことがあります。

【Aさん】

「全財産を長男Aに相続させる」という父の遺言のおかげで、妹達から自宅を差し押さえられてしまいました。。

ええ!?
どういうことですか?

【Aさん】

まさか自分が死んだ直後にリーマンショックが起きるとは、父も思っていなかったと思います。

しかも不運なことに遺産の大部分が株だったので、父が亡くなった後で遺産総額がかなり目減りしてしまって妹達の遺留分が払えませんでした。

なるほど。そういうことだったんですね。

遺留分は、被相続人が相続開始時において有した財産の価格を算定基準とするので、お父さんの死亡時の遺産の価額が遺留分の計算の算定基準になります。

つまり、亡くなった時の高い株価で遺留分が計算され、それからリーマンショックが起きたので、いざ株を売ろうとしたら株価が暴落して払えなかったということなんですね。

この遺言はAさんのお父さんが旧知の弁護士さんに相談して作っていたらしく、亡くなるまでAさんも知らなかったそうです。

  • 他の子供達は遺留分を主張してこないだろうという想定で書いたのか?
  • 遺言を書くことで長男以外の取り分を法定相続分から遺留分にまで減らしたかったのか?

どちらなのかわかりません。

仮に遺留分を主張してきてもそのときは相続財産から渡せばいいと、お父さんは考えていたかもしれませんが、2人の妹さんは当然のように遺留分を主張してきたようなので、リーマンショックが起きなくても揉めてしまった気がします(汗)。

「親父の遺言のせいで兄妹の関係は終った」とAさんが嘆いていました。きょうだいから自宅を差し押さえられるなんて想像するだけで、言葉がありません。。

へたな遺言を書いてしまったせいで家族の仲が壊れてしまうことがありますAさんの事例で遺留分を無視して書いた遺言の本当の怖さを垣間見ることになりました。

遺留分のある相続人にどうしても財産を遺したくない事情があるなら、簡単ではありませんが推定相続人の廃除を検討することも必要かもしれません。

遺留分についてもっと詳しく

Q.遺留分(いりゅうぶん)とは?

遺留分は兄弟姉妹を除く法定相続人に認められている絶対的な相続財産の受け取り分のことです。

遺留分の割合を法定相続分と混同していたり、兄弟姉妹にも遺留分があると勘違いされる方も多いようなので、遺言を書く上で最低限押さえて置きたい遺留分の基本的な内容をまとめました。

遺留分と法定相続分の割合を簡単に整理すると、下の図のようになります。

法定相続分と遺留分の比較
法定相続分と遺留分の比較

全財産を相続人以外の第三者に遺贈するという遺言があったとしても、遺留分は絶対的な相続財産の受け取り分なので、相続人が配偶者と子供のケースなら配偶者も子供もそれぞれ遺留分(相続財産の4分の1)を請求できるということになります。

2019年7月1日から遺留分減殺請求権が遺留分侵害額請求権に変わり、遺留分を侵害している額に相当する金銭の支払いを請求することができるということになりました。

第千四十六条 遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。

民法

Q.遺留分はいつまで取り戻せるの?

遺留分は請求できるというだけで請求するかどうかはその人の自由です。また遺留分は放棄することができます。

ただし、いつまでも遺留分が請求できると法的に不安定な状態が続いてしまうので、遺留分を取り戻すことができる期間は次のように定められています。

  • 「相続が起きたこと」及び「遺留分を侵害するような贈与・遺贈があったこと」を知った時から1年
  • 相続が起きた時から10年

(遺留分侵害額請求権の期間の制限)
第千四十八条 遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から一年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から十年を経過したときも、同様とする。

民法

相続が開始する前でも遺留分を放棄することができますが、相続が開始する前に遺留分を請求することは出来ません(それはさすがに無理です)。

Q.他の相続人が遺留分を放棄すると・・・

遺留分を放棄しても他の相続人の遺留分は増えません。この点は相続放棄の場合とは異なります。

Xさんが「妻Yにすべての財産を相続させる」という遺言を遺していたケースを考えてみましょう。

Xさんの相続人は次の3人です。

  • Xさんの再婚相手のYさん
  • Xさんと前妻との子供であるAさん・Bさん
Xさんの相続人

Aさん・Bさんは遺留分である8分の1をそれぞれ取り戻すことができます。仮にBさんが遺留分を放棄したとしても、Aさんの遺留分は8分の1のままで増えません。

相続人の中に遺留分を放棄する人がいたとしても他の相続人の遺留分が増えるということはありません。遺留分はあくまでも相続人それぞれについて定まっているので、遺留分を放棄することも相続人それぞれがすることができます。

また、遺留分を取り戻すかどうかも各相続人の意思に委ねられているので、兄弟であっても「俺の遺留分も一緒に取り戻しておいて」というわけにはいきません。

(遺留分の放棄)
第千四十九条 相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる。
2 共同相続人の一人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない。

民法

参考までに相続放棄の場合も見ていきましょう。

Xさんが遺言を作成しないで亡くなった場合、妻であるYさんの法定相続分は2分の1で、お子さん達Aさん・Bさんの法定相続分は各4分の1になります。Bさんが相続放棄をするとAさんの相続分は2分の1に増えます。 ここが遺留分の放棄とは違います。

【遺留分クイズ】 遺言に託した思いは叶うのか?

遺留分に関するクイズです。ここまで読んだ内容を確認してみましょう。

遺言を書く立場だけでなく、相続人の立場でも考えてみてください。

Aさん、Bさんが遺言を遺して亡くなりました。

二人の遺言はどちらも相続人以外の第三者に全財産を遺贈するという内容です。
・AさんはCさんに
・BさんはDさんに

二人の家族構成を見てみましょう。
Aさんには唯一の相続人である弟がいます。

Aさんの遺言

Bさんには妻と息子がいます。

Bさんの遺言

二人が相続人にはまったく遺産をあげたくなかった理由はご想像にお任せします。さて、遺言に託した二人の想いは叶うのでしょうか?

正解を発表します!

  • Aさんの想いは叶います。
  • Bさんの想いは叶わない可能性が高いです。

結果が違ってくるのは、二人の相続人が遺留分のある相続人かどうか?が関係しています。

Aさんの相続人は弟です。兄弟姉妹は遺留分のない相続人です。

一方のBさんの相続人は配偶者と子供で、二人とも遺留分がある相続です。

仮にBさんの妻と息子が遺言の内容に納得し遺留分を主張しなければ遺言の通りになりますが・・・。

遺留分があるのにまったく遺産をもらえないのは納得できないという方がほとんどじゃないでしょうか(Dさんという女性との関係も気になるし)。

僕も納得できないと思います。そういうわけで、Bさんの想いは叶わない可能性が高いと思います。

まとめ

遺言があれば、原則は遺言の指定どおりに遺産をわけることになりますが、あくまでも原則であり、例外もあるということです。

なお遺留分を無視した遺言も無効ではなく有効ですが、遺留分の取戻しが争いに発展する可能性があるので、自分の気持ちに任せて自由に遺言を作るのは考えものかもしれません。

遺留分の取り扱いは慎重に

主な財産である自宅を同居している長男に相続させるという遺言を作った場合は、他のお子さんから長男さんに遺留分を請求される可能性があります。

こういったお話しをすると、「うちはたいした財産もないし、子供たちも仲がいいから相続の心配なんてしていませんよ」と仰る方の方が急に遺留分のことを気にされるように感じます。

仮に遺産が現金なら簡単に分けることが出来ますが、自宅などの不動産は分けにくい上に誰かが住んでいればそれを売却して現金を分けるのも現実的ではないですよね。

また、同居しているお子さんの相続分を増やしたいからという理由で遺言を書こうとしたら「揉めたくないから、お願いだからそんな遺言は書かないで!」と同居しているお子さんから待ったがかかることがあります。

同居して面倒を見てくれたお子さんに財産をあげたいという気持ちも分かりますが、遺留分の割合を正確に把握したうえで、くれぐれも遺言がトラブルの火種にならないようにしたいものですね。

遺産の行方を自分の意思で決めることが出来るのが遺言ですが、作った本人が納得できてかつ残される家族が納得できる内容の遺言を作るのは実は簡単ではないのかもしれません。

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司法書士・行政書士 伊藤 薫

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