
2024年4月1日から相続登記が義務化されました。
被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内という相続税の申告期限のことを相続登記の期限だと勘違いしている人もいるようですが、これまでは相続登記に期限はありませんでした。
今後は、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に相続登記をすることが義務になります。
目次
義務化のきっかけは所有者不明土地の問題
相続登記義務化のきっかけは所有者不明土地の問題です。
所有者不明土地というのは登記されている内容を調査しても所有者が判明しない、又は判明しても連絡がつかない土地のことをいいます。
その面積は九州よりも広いと推計されています(2016年時点)。
この所有者不明土地の問題が2011年3月11日に起きた東日本大震災の復興作業で大きな障害になってしまったことが、相続登記の義務化について検討されるきっかけになりました。
そして、問題の解消に向けたこれまでの政策で法定相続情報制度(平成29年5月29日)や遺言書保管法(令和2年7月)がスタートしてきた中で、相続登記の義務化がスタートしました。
放置される”負”動産が増えています
不動産と聞くと「不労所得」といったイメージを抱く方もいると思いますが、不動産の中には貸すことも売ることもできないのに、固定資産税だけがかかっているような不動産があります。
羨むどころか、誰も欲しがらないような不動産もあるわけで、最近では“負”動産なんていう言葉を目にするようになりました。
司法書士を対象にしたアンケートによると・・・
- 5割の司法書士がいらなくなった土地を自治体に寄付したいという相談を受けたことがある
- 不動産の相続放棄について相談を受けた司法書士は4割
という結果からわかるように、“負”動産を持て余している現実が垣間見えてきます。
相談される方の中には、仮に土地を捨てることができるなら捨ててしまいたいという方もいらっしゃると思います。
現実に捨てることはできないので、名義変更や管理をせずに放置されてしまう土地がたくさんあって「所有者不明の土地が○○よりも広い」という調査結果が出ました。
さて、○○には何が入るでしょう?
所有者不明土地問題研究会の推計によると、所有者が分からなくなっている可能性のある土地が約410万ヘクタールあって、なんと九州の面積よりも広いという結果が出たようです。
誰も住まなくなった田舎にある実家や先祖代々受け継いだ山林が名義変更をされずに放置されているのかもしれませんね。
先の司法書士へのアンケートによると「一部の不動産について相続登記をしないよう依頼された司法書士が4割」という調査結果があり、相続登記をしない理由の中には相続人が多数になって
- 遺産分割協議が困難
- 相続人を探す費用がかかる
という理由が多かったようです。
確かに相続手続きを放置していた場合は、相続人を把握するために大量に戸籍を取得することになったり、その戸籍を読み解くのはかなり大変なので、費用が高額になってしまうのには致し方ない部分があります。
誰も住んでいないような田舎の土地が放置されてしまうのは理解できますが、中には相続人の誰かが住んでいるにも関わらず名義変更がされず長い間そのままになってしまう場合もあります。
- 建物が老朽化したので建て替えたいが、土地の名義変更ができないためにローンが組めない
- 誰も住まなくなったので売却したいが、相続人が多すぎて手続きが進められない
といったご相談もあるので、単なる自らの怠慢で塩漬けにしてしまい、“負”動産にするようなことはないよう気をつけたいですね。
所有者不明土地の具体例|忘れられた不動産

相続手続きをしないまま長い年月が経つと、解決することが非常に難しくなります。
中でも兄弟姉妹が相続人の場合は、できるだけ早めに手続きをしないと大変な手間になることを知ってもらえたら幸いです。

ある夏の日…。
Aさんの相続手続きがそのままになっていたことに親族が気づきます。
独身で子供がいなかったAさんの相続人は兄弟姉妹。

親族が気づいたのはAさんが亡くなって58年後。
いったい相続人は何人に増えているのか?
このままにしておくことはできないと親族が立ち上がりました。
- 戸籍を調べるとAさんの相続人は60人
- 集めた戸籍は200通以上
一般的な相続で必要になる戸籍の量とは比べ物にならないくらいのボリュームです。

58年の間に相続人は親族以外にも広がっていて、連絡を取って遺産分割協議をまとめるのは相当大変だったようです。
相続登記の義務化で何が変わるの?
2024年4月1日から相続登記が義務化されました。これからは相続が発生した場合に土地や建物の名義変更をしないでそのままにしておくことができなくなりました。
2024年4月1日よりも前に相続した不動産も義務化の対象になります。これは長年手続きをしていなかった不動産も対象になるということです。※3年間の猶予期間があります
また、正当な理由がないのに相続登記をしない場合は、10万円以下の過料が科される可能性があります。
ただし、現実には事情があってすぐに相続登記ができないケースも沢山存在します。そこで義務化にあわせて相続人申告登記という新しい制度がスタートしました。
Q. 相続登記をしないとどうなるの?-義務化の過料について-

【Aさん】
相続登記が義務化されて、過料を科されることがあると聞いて不安になっています。
10万円以下ということですが、金額はどのように決まりますか?また、過料と罰金は違いますか?

相続登記が義務化されて、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に、相続登記をしない場合で、相続登記をしないことについて正当な理由がないときには、過料の対象となります。
※本資料は法務省の公式ウェブサイトを参考にまとめました。
過料とは?
過料というのは、行政上の秩序を守るために制定されているペナルティー(秩序罰)のことをいいます。
刑罰ではないので前科がついてしまうことはありませんが、過料の支払いをしなかった場合は不動産などの財産に対して強制執行をされることがあります。
罰金とは?
罰金というのは、刑法で定められている刑罰の一種で、1万円以上の金銭を強制的に徴収する財産刑のことをいいます。
裁判所で有罪判決を受けることとなるので、いわゆる「前科」がついてしまうことになります。
過料が科される流れ
(1)登記官が、義務違反を把握した場合、義務違反者に登記をするよう催告します(催告書を送付します。)。
(2)催告書に記載された期限内に登記がされない場合、登記官は、裁判所に対してその申請義務違反を通知します。
(3) (2)の通知を受けた裁判所において、要件に該当するか否かを判断し、過料を科する旨の裁判が行われます。
出典:法務省の公式ウェブサイト
このように、相続登記を行わないことについて、正当な理由が認められれば、裁判所に対して申請義務違反の通知が送られず、過料が科せられることはありません。
ただし、催告を受けた相続人から説明を受けて、登記申請を行わないことにつき、登記官において「正当な理由」があると認めた場合には、この通知は行いません。
出典:法務省の公式ウェブサイト
また、催告書を送付する場合として記載されている具体例は以下の通りです。
(1)相続人がある不動産について遺言の内容に基づく所有権移転登記の申請をしたが、その遺言書には別の不動産も登記申請した相続人に相続させる旨が記載されていたとき
(2)相続人がある不動産について遺産分割の結果に基づく相続登記の申請をしたが、その遺産分割協議書には別の不動産も登記申請した相続人が相続する旨の記載がされていたとき
出典:法務省の公式ウェブサイト
まとめ
相続登記義務化による過料は、行政上の秩序維持のための制裁金であり、前科の付く罰金とは異なります。
法務省のサイトを見る限り、登記をするように催告書を送付する場合というのは、限定的な印象を受けます。
また実際のところ過料がいくらくらいになるのかの目安はわかっていません。新しい情報がわかり次第お知らせいたします。
登記義務が課せられる登記
まずは登記義務が課せられる登記を見ていきましょう。
- ①相続又は遺贈の登記
- ②相続登記後、遺産分割が行われた場合の遺産分割の登記
相続登記が義務化されると期限までに手続きを行わない場合に10万円以下の過料が科される可能性があります。
相続の場合の期限は、自己のために相続の開始があったこと及び所有権を取得したことを知った日から3年以内です。
期限までに間に合わない場合はどうすればいいのか?が非常に気になると思いますが、義務化で生じる負担を軽減するために相続人申告登記という制度が創設されました。
Q. 今すぐ登記は必要ですか?~相続人申告登記について~

相続登記の義務化に伴って、相続人申告登記制度がスタートしています。
相続が発生したこと、相続人であることを申し出ることで、取り急ぎ相続登記義務化の罰則を免れることができます。
各相続人が単独で申し出ることができます。登録免許税もかかりません。
あくまでも暫定的な手続きなので、その後、相続人間で遺産分割協議が成立した場合には、相続登記が必要になります。

【Aさん】
相続登記が義務化されたと聞きました。10年前に亡くなった兄には子供がおらず、相続人は兄弟や甥姪など10人以上います。
ずっと話し合いができず相続手続きは進んでいないので、今すぐ相続登記をするのは難しそうです。

2024年4月1日から相続登記が義務化されました。
義務化によって、原則として相続により不動産を取得したことを知った時から3年以内に登記をしなければならず、怠った場合には10万円以下の過料の対象となります。
2024年4月1日より前に相続した不動産も今すぐ登記をしなければいけないわけでなく、3年という猶予期間があります。
早期に相続登記をすることが難しい場合に、簡易に相続登記の申請義務を履行することができる「相続人申告登記」という制度がスタートしました。
相続人申告登記とは?
相続人申告登記は、相続登記の手続自体が負担なので最終的な相続登記は改めてすることにして、とりあえず相続が発生したことを申告することで相続登記の申請義務を簡単に履行できるようにする制度です。
相続人申告登記は、非課税(登録免許税は0円)です。
相続人全員でしなければならないの?
相続人申告登記は、相続人全員でする必要はなく、相続人であればそれぞれが単独でできます。単独でできるので、他の相続人と話し合う必要や同意を得る必要もありません。
相続人申告登記の提出書類は?
必要となる主な書類です。
- 申出書
- 申出人が登記記録上の所有者の相続人であることが分かる戸籍の証明書
- 申出人の住所を証する情報
相続登記に比べて提出する書類が簡略化されています。
登記される内容は?
- 登記簿上の所有者に相続が発生したこと
- 自らがその相続人であること
という申出をすると、登記事項証明書(登記簿謄本)に申出をした相続人の氏名・住所が記録されます。
これまでの相続登記とは違う暫定的な手続きなので、持分は登記されません。売却や贈与で名義を変更したい場合には、その前提として相続登記を行う必要があります。
相続登記義務化のまとめ
- 2024年4月1日から相続登記が義務化されました
- 相続登記をしないと過料が科される可能性があります
- 既に発生した相続も対象です(猶予期間があります)
- 早期の遺産分割が難しい場合は、相続人申告登記という手続きで申請義務を果たすことができます
※本資料は法務局の公式ウェブサイトを参考にまとめました。
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司法書士・行政書士 伊藤 薫