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お酒に関するブランディングやマーケティング本

酒類全般

お酒はこれからどうなるか|都留 康

「もうひとつは、経済学や経営学の観点からの結果の解釈である。これは筆者の専門性のゆえであるが、歴史学や醸造学の視点からの類書が多い中で、本書の特色となっていよう。」と書かれているように、最新の事例を経済学・経営学の視点から解説しているのでお酒に関するビジネスの新しい動きを知るのに最適な一冊です。

印象的だったのでは、86ページの「テロワール」の二面性の記述です。

本節見出しの「テロワールの二面性」とは、一面では、それは「ブドウ畑の総合的な自然環境を表現する言葉」であり科学の用語である。しかし、他面では、それは産地間競争にさらされた銘醸地の「究極の差別化」のためのレトリックである。この二面性に留意しない「テロワール」の語の濫用は慎むべきと考える。ちなみに、この観点からは、日本酒で「テロワール」を語るのは、ほぼ無意味であり、語りたいなら日本語で表現すべし、というのが筆者の意見である。

レトリック・・・巧みな表現をする技法。日本酒を例に挙げているが、泡盛でテロワールというのも違和感しかないわけで、テロワールを安易に使うのは止めようという良い戒めになりました。

この本で触れられていないビールと焼酎は、「お酒の経済学-日本酒のグローバル化からサワーの躍進まで|都留 康」がおすすめです。

お酒の経済学-日本酒のグローバル化からサワーの躍進まで|都留 康

「お酒の経済学」で知ったこの調査結果を興味深く読みました。

参考|お酒の出荷低下、「若者の酒離れ」は本当か?;この10年間の酒類出荷指数変化と酒類支出の世代別比較

若者の酒離れの真偽のほどはわかりませんが、飲酒適齢層(20~64歳)の増加が期待できない日本が国を上げて日本産酒類の輸出に注力しているのは納得です。

国税に占める酒税の割合がこうも下がると飲酒適齢層の減少のインパクトは大きいですね。

日清戦争後の軍備拡張と官営企業への財政支出が増大し、酒税の増税が繰り返された。1899年(明治32年)には酒税の国税に占める割合が35.5%となり、それまで国税収入のトップであった地租を抜いて第1位となった。(中略)直近の2019年度では、酒税は国税収入の2%(64兆円のうちの1.3兆円)にまで減少している。ちなみに、現在の国税収入のトップは所得税である。

お酒の経済学 18ページ

コモディティ化は電化製品、お酒に限ったことじゃありません。どんな製品・サービスだって同じだろうと思います。僕のような士業なんかもそうでしょう。生き延びるためには考えないといけません。

コモディティ化とは、「競争次元が同質的になり、消費者が十分に製品間の異質性を知覚できなくなることで、競争の主軸が価格へと収斂してしまう現象(西本2016)」と定義される。液晶テレビ、デジタルカメラ、ノートパソコンなどがその典型例である。メーカーが違っても、機能がほぼ同じなら、消費者の関心は家電量販店や通販サイトでの価格になる(延岡・伊藤・森田2006)。

お酒の経済学 179ページ

ビール

よなよなエールがお世話になります|井手 直行

  • ①業界初
  • ②インパクト
  • ③ユーモア

この3つが揃っていることがヒット商品の条件らしい。以前、読んだ時はオリジナル泡盛の企画の参考になりそうだなと思いましたが、司法書士・行政書士の分野でこの3つを目指してみるのも面白そうだなと思いながら読みました。

さらに詳しく勉強したのは「男前豆腐店」の事例でした。そう「男前豆腐」「風に吹かれて豆腐屋ジョニー」などの豆腐を販売している京都の会社です。ここから学んだのは、次の三つがある製品やプロモーションは話題になる!ということでした。
・業界初
・インパクト
・ユーモア

よなよなエールがお世話になります 137ページ

この3つと似ているように感じますが、ヤッホーバリューも長く売れ続けるためには意識したい視点です。士業なら個性的な味は人、自分自身の個性を出すことを考えればいいのかなと思います。

そして、最後につくったのは「ヤッホーバリュー」。僕らの価値がどこにあるかです。
・革新的行動
・(造り手の)顔が見える
・個性的な味
(中略)「例えば、コンビニに並んでいるクラフトビールらしくない普通のビールは、最初は売れるものの、そのうち熱狂的なファンが離れてしまって、陳腐化していく」と言う。

よなよなエールがお世話になります 189ページ

ビジネス・フォー・パンクス|ジェームズ・ワット 訳 高取芳彦 解説 楠木建

翻訳されたものだし、ジョークがふんだんにちりばめられているので少々読みにくいかもしれません。馴染めなくて途中で挫折する人もいそうですが、くじけずに最後まで読んでください。

本編も良いのですが解説が秀逸です。解説を読んで本編で気になったフレーズを反芻するのもよし、解説を読んでから本編を読むのもおすすめです。

著者ジェームズ・ワットを評して地で行っているという、「努力の娯楽化」という考え方に非常に共感します。引用するには少々長いのですが、個人的にこれを読むことができただけでもこの本を読んだ価値があると思えたフレーズなので掲載させていただきます。

僕の考える解決策はひとつしかない。それは「努力の娯楽化」という発想の転換である。客観的に見れば大変な努力投入を続けている。しかし当の本人はそれが理屈抜きに好きなので、主観的にはまったく努力だとは思っていない。むしろ楽しんでいる。考えてみれば、それが「努力」かどうかは当事者の主観的な認識の問題だ。「努力しなきゃ・・・」と思った時点でもう行く先は怪しい。だとしたら、「本人がそれを努力だとは思っていない」、これしかないというのが僕の結論である。

とにかく好きなので、誰からも強制されなくても努力をする。インセンティブは必要ない。「好き」は自分の中から自然と湧き上がってくるドライブ(動因)である。呼吸をするように自然に続けられる。それは努力というよりも、自分で勝手に「凝っている」「こだわっている」といったほうが言葉としてはしっくりくる。そのうちに能力がついてくる。成果が出る。人に必要とされ、人の役に立つことが実感できる。すると、ますますそれが好きになる。時間を忘れるほどのめり込める。時間だけでなく、我を忘れる。人に認められたいという欲が後退し、仕事そのものに没入する。「自分」が消えて、「仕事」が主語になる。ますますセンスに磨きがかかり、さらに成果が出る。―以上の連鎖を短縮すると「好きこそものの上手なれ」という古来の格言になる。

ビジネス・フォー・パンクス 383ページ

「努力の娯楽化」は、「自分の幸せを自分で定義すること」と本質的に同じだろうと感じました。結果よりも過程が大事だと言うつもりは毛頭ありませんが、過程自体が楽しければ結果は単なる結果でしかない。仕事に夢中になっても、いわゆるワーカホリックとはまったくの別物だと思います。

また、低身長症の人を雇って政府に訴えた、車にはねられた小動物をパッケージに使った、国会議事堂の壁に自分たちの姿を大写しにした・・・・・・

破天荒?非常識?奇をてらった営業手法にも思えますが、「自分たちと同じぐらい世の人々を上手いビールに夢中にさせる」という使命に達成するために「パンク」という基準に従って思考と行動していることがわかると、なんとも明確で痛快な企業活動を続けていることがよくわかります。

僕はオリジナル泡盛を作るときに参考になるかもしれないという動機でこの本を購入しましたが、実際にオリジナル泡盛を造って完売することができたという実績が生まれたので、パンクは実行と方法についての哲学と言われると音楽としてのパンクの上っ面しか知らない僕でもそうなのかもしれないと思えます。

パンクは実行と方法についての哲学でもある。自分がよいと思うことを自分がよいと思うやり方でみずからやる。実行者としての主体性と当事者意識、これもまたパンクの中核をなす価値観だ。

ビジネス・フォー・パンクス 380ページ

解説の中で一番刺さったのはこの一文です。

本書で繰り返し強調されているように、ブリュードッグのユニークな製品群が会社の経営の中核にあることは間違いない。しかし、著者が自分の「好き」を単純に「クラフトビール」という具体的なモノで定義していたら、今日のブリュードッグの成功はなかっただろう。

ビジネス・フォー・パンクス 387ページ

「好き」をモチベーションに、「努力の娯楽化」に支えられて、今日のブリュードッグの成功があると言ってしまうのはあまりにも短絡的なのかもしれません。

自身を振り返ってみると、泡盛をいつまでも泡盛のままにしておいてはダメってことですね。泡盛が好きという想いは変わっていませんが、この2年は意図的に泡盛との付き合い方を変えてきたので、泡盛を具体的なモノ以上の概念で定義する時期が来たのかもしれません。

焼酎

黒霧島物語|馬場 燃

地方創生の理想型のモデルと言われている霧島酒造が日本一になるまでの様々な取り組みが学べる一冊です。

年間100日→通年生産を可能にするために、豊作不作にかかわらず栽培面積に応じて一定の収入を農家に保証して原料を確保し、自社で冷凍芋を造る設備を整えたエピソードが好きです。

2004年秋、焼酎500年史の常識を覆すイノベーションを起こす。徳元は「自社で冷凍芋の技術を確立したため、他の焼酎メーカーに何も知られずに増産体制が整った。『霧島酒造だけどうしてそんなに生産でいるのか』と訝しがられたが、品質のレベルを落とさずに通年生産ができた」と胸を張る。中国に頼らず、南九州の原料を使うという方針を死守した。

もっとも、このシステムを持続するには、従来以上に芋を大量に確保することが欠かせない。そこで、霧島酒造は通年生産の達成と同時に、酒類業界全体でも珍しい大規模な農家の囲い込みに乗り出す。

黒霧島物語 128ページ

そして、それ以上に好きなのは、会社で話題にしてもらうために朝から駅前で黒霧島の100ミリリットルの無料サンプルを配ったエピソードです。

通常ならば、お酒のサンプルは「夜」もしくは「繁華街」で配るのが基本だ。試供品は「家」に持ち帰り、試してもらうことになる。これに対し、霧島酒造はユニークなシチュエーションで無料サンプルを配った。黒霧島は「朝」に「駅」で出勤前の会社員に大量配布した。当然、サンプルは「職場」に持ち込まれる。作戦の狙いは、仕事中に飲んでもらうことではない。話題づくりにあった。

黒霧島物語 102ページ

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司法書士・行政書士 伊藤 薫

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