目次
もしものときは突然に
エンディングノートが書けない理由
この記事を読んでいるみなさんは多少なりともエンディングノートに関心があるのだろうと思いますが、みなさんがエンディングノートを書いておきたい理由は何ですか?
ある調査によると、家族に面倒を掛けたくない、終末期や死後の希望を残しておきたいというニーズがあるようです。
なぜエンディングノートを書こうと思ったのですか?
☑ 家族への感謝を書き残したいから 49.1%
出典:終活・エンディングノートに関する調査2014年(複数回答)
☑ 遺品整理や遺産で面倒をかけたくないから 66.8%
☑ (入院や介護など)終末期の希望を伝えたいから 49.1%
☑ (葬儀や遺産など)死後の希望を伝えたいから 47.9%
☑ 最期は自分で始末をつけたいから 52.6%
その一方で、エンディングノートを書いている人はほとんどいません。これがエンディングノートの残念な現実です。
エンディングノートを作成していますか?(対象|現在介護を受けていない70歳以上の方)
いいえ 91.8%
出典:「終活の準備状況」に関する調査 2022年
エンディングノートが書けない理由を挙げれば、きりがなさそうですが、主なものはこんなところでしょうか。
- 時間がない
- 面倒くさい
- 難しそう
- 書くことが多すぎて、どこから書いていけばいいのかわからない
- そもそも書き方がよくわからない etc.
でもエンディングノートが書けない最大の理由は、自分にはまだ早い。もしものときなんて、ずっと先のこと。
と何歳でも今が元気ならここで思考停止してしまうことかもしれません。結局のところ、自分のもしものときにリアリティを感じられないから書こうと思わないわけです。
エンディングノートを書いておいた方がいいと頭ではわかっているのに、書けないのはもしものときなんてずっと先のことと自分事になっていないからです。
平均寿命は延びていますが、もしものときは突然やってきます。自分にとってエンディングノートが必要だと思うなら何歳で書くのがいいのかを考えることに意味はないでしょう。
もしものときは突然に
もしものときは突然やってきます。
僕の祖父のときもそうでした。夜はいつも通りでしたが、朝、母が起きると祖父が廊下で倒れていました。
「転んだだけだ」と祖父は言うけど様子が変なので、僕と祖母で病院に連れていくと、朝方、脳梗塞が起きていたことがわかりました。
それから祖父は施設と病院を行ったり来たりで自宅に戻ることなく亡くなりました。
あまりにも突然のことだったので、介護や延命治療の希望など祖父の気持ちはまったくわからずしまい。家族が代わりに決めるしかなかったです。
当時、僕は大学生で一人暮らしをしていたのですが、たまたま就職のことで実家に帰る用事があったので倒れる前の夜、祖父と話すことができました。
「ただいま」「おかえり」
「おやすみ」「おやすみ」
こんな何気ないやりとりが祖父と普通に話せる最期の会話になるとは思ってもみませんでした。
もしものときはずっと先のような気がするけど、来るときは一瞬のことなんですよね。こんなことは僕が言うまでもなくみなさんわかっていると思いますが。
一人暮らしの家から実家まで新幹線で2時間。夏休みと冬休み、春休みに帰省しても年3回程度しか帰らないのに、いつもは帰らないタイミングで帰省したときが祖父が倒れるときだったとは。。
両親が働いてて祖父母が親代わりだった僕にとって祖父の存在というのは絶対的でした。家に帰るといつも父親が家にいるような感覚と言えば、その存在感の大きさはなんとなく伝わるでしょうか。
祖父は脳梗塞で倒れただけで亡くなったわけじゃないけど、自分が知っている祖父とのギャップが大きく、就職で大阪で暮らし始めてお盆や年末年始に帰省しても祖父は家にいないので、20代半ばの僕にとっては祖父は亡くなってしまったような大きな喪失感がありました。
物心つく頃から大学まで祖父のことを見ているので、そりゃあ年々年をとっているという印象はありましたが、祖父の場合は少しずつ衰えていったというよりも、一夜にしてガラッと変わるのを目の当たりしたことが衝撃的な出来事として印象に残っています。
もしも明日がイメージできますか?
試しに「もしも明日」を考えてみませんか?
もしものときに家族に面倒をかけたくないと思っている方は、現状を把握するためにぜひ一度トライしてみてください。まだ元気だからとか、まだ若いからという言い訳はやめて真剣に考えてみてください。
「もしも明日」について考える15の質問を用意しました。
もしも明日、脳梗塞で意識不明になったら・・・どうなりそうか?真剣に考えてみてください。
Q1.緊急時の連絡先を決めていますか? | ・決めている ・決めていない |
Q2.医療費の支払いはどうしますか? | ・お願いできる人がいる ・いない |
Q3.預金はありますか? | ・ある ・ない |
Q4.保険に加入していますか? | ・加入している ・加入していない |
Q5.通帳やカードはどこに保管していますか? | ・把握している ・把握していない |
Q6.介護をしてくれる人はいますか? | ・いる ・いない |
Q7.成年後見制度を知っていますか? | ・知っている ・知らない |
Q8.飼っているペットはいますか? | ・いる ・いない |
Q9.延命治療について考えたことがありますか? | ・ある ・ない |
Q10.どんな葬儀を希望しますか? | ・考えている ・考えていない |
Q11.お墓はありますか? | ・ある ・ない ・わからない |
Q12.携帯電話やパソコンのデータ、 SNSのアカウントはどうなりますか? | ・考えている ・考えていない |
Q13.財産を遺したい人はいますか? | ・いる ・いない |
Q14.誰が法定相続人かわかっていますか? | ・わかっている ・わかっていない |
Q15.エンディングノートを託せる人はいますか? | ・いる ・いない |
10年後ならイメージできないかもしれませんが、明日脳梗塞で意識不明になったら日々の生活がどうなるかはイメージできますよね?
いかがでしたか?
- 家族やまわりに面倒をかけなくて済みそうだとか
- 一体どうなってしまうんだろう?とか
様々な感情が沸き上がったと思います。おそらく、エンディングノートを書いておかないといけないと感じた人が多いんじゃないでしょうか。
エンディングノートを書いておいた方がいいと頭ではわかっているのに、いつまでも書けないのは、もしものときなんてずっと先のことと自分事になっていないからです。エンディングノートを書き出すなら、もしものときを真剣にイメージすることがスタートです。
自分のためにも家族やまわりの助けにもなるエンディングノートを書いて、もしものときに備えませんか?
本当に役に立つエンディングノートを作るための9箇条
もしもに備える目的でエンディングノートを書くときに重要なポイントがあります。ここを理解してから書かないと効果は期待できないので、まずはそのポイントから理解しましょう。
もしもに備える目的でエンディングノートを書くときに重要なポイントがあります。ここを理解してから書かないと効果は期待できないので、まずはそのポイントから理解しましょう。
①書きにくいからこそ医療と介護のページから書こう
人生の締めくくりに!と意気込むと書いておきたいことが多くなるのは仕方がありませんが、エンディングノートは全部のページを書こうとするとまず書けません。
エンディングノートは書く項目が多いので、全体像を目の当たりにしてこんなにあるんだと引いてしまって、氏名・住所、生年月日あたりで止まってしまう人が多いようです(苦笑)。
エンディングノートが活躍するのは書いた人の緊急時や亡くなった後です。
胃ろうをして良かったのか?しない方が良かったのか?と、亡くなった後まで悩み・葛藤されているご家族を成年後見人として見てきました。もしエンディングノートに胃ろうについてのお母様の希望が書いてあれば、どれだけご家族の救いになっただろうと思いました。
エンディングノートを書くことで、もしものときの家族の負担を少しでも軽くしたいなら負担の大きな項目から書き始めましょう。
もしものときに家族が最も知りたい、かつ本人にしかわからないところからです。優先順位が高いのは医療や介護のページ、中でも胃ろうをして欲しいのか?など延命治療の希望から書き始めるのをおすすめします。
②エンディングノートは本音で書こう
「認知症や寝たきりになった時、介護をお願いしたい人や場所は?」
・自宅で家族に介護をお願いしたい
・自宅で、プロのヘルパーなどに手伝ってもらいながら家族と過ごしたい
・介護施設や病院に入れて欲しい
・家族・親族の判断に任せる
といった介護の希望を書くページがエンディングノートにはあります。
家族に負担をかけたくないと考えて家族・親族の判断に任せるを選びたくなる気持ちはよくわかります。でも本人の希望・気持ちがわからなければ、
- お父さんは自宅で介護をしてほしいはず
- お父さんは施設で過ごしたいはず etc
お父さんはこうして欲しいはずとそれぞれが自分勝手に言い出します。
当たり前ですが、家族といってもそれぞれ価値観が違うので介護の方針をめぐって家族が揉めてしまうことがあります。さらに遺産分けにまでその影響が及ぶこともあります。安易に家族・親族の判断に任せるを選ぶと家族が揉める火種になります。
もしものときに家族が知りたいのは、こうして欲しいというあなたの本音です。エンディングノートにはあなたの本音を書いてください。
エンディングノートを書いておくよりも本音を直接伝えておいた方がよいのは当然のことです。
③必要最小限の言葉の意味を理解してから書こう
エンディングノートは、一度書いても気持ちが変われば何度でも内容を書き直すことができます。ただし前提となる最低限の知識がないままにエンディングノートを書いているとしたら、それは自分の意思を正しく表したことにはなりません。
例えば、エンディングノートにはリビングウイル、尊厳死などのあまり馴染みのない言葉が沢山出てきます。言葉のイメージだけでなんとなく記入してしまっていませんか?
また法定後見と任意後見、2つの成年後見制度の違いを理解していますか?法定後見の申立書に後見人の候補者を書く欄がありますが、必ずしも候補者が後見人に選ばれるわけではないことを知っていますか?
必要最小限の言葉の意味を理解してから書くことは本当に役に立つエンディングノートを作る最大のポイントかもしれません。
次章にリビングウイル、日本尊厳死協会の会費や入会方法、成年後見制度の基本について簡潔にまとめました。エンディングノートを書き始める前に目を通しておくと安心です。
④正確な情報を元に書こう
せっかく書くならエンディングノートには正確な情報を書いておくのは当然ですよね。資産のページは通帳や証券を手元に準備して書きましょう。こういった書類を準備する過程でほとんど使っていない口座に気づいて、解約を検討するきっかけにもなります。
中でも複数の不動産をお持ちの方は権利証(登記識別情報)や納税通知書、登記事項証明書を準備しましょう。納税通知書だけではなく登記事項証明書もです。
自宅ならどんな書き方でも家族には伝わると思いますが、自宅以外の不動産、特に相続した田舎の土地など家族の中で自分しか把握していない不動産は登記事項証明書を見ながら所在や地番を正確に書いておきましょう。
⑤個人情報は書きすぎない
エンディングノートの空欄を正確な情報で埋めながら書き進めていくのは爽快な気分になります。
そして、情報がまとまってくると、このエンディングノートを見ればすべてわかるようにしておきたいという欲が沸いてきます。具体的には暗証番号やパスワードもまとめて書いておけば便利だろうと思ってしまうわけです。
特に資産のページは、あまりに詳しく書きすぎるとエンディングノートが個人情報の塊になってしまうので危険です。家族が口座や不動産の存在を漏れなく把握できる程度の情報にとどめておくのが無難です。
一方で、詳しく書きすぎないようにしつつも自分にしかわからないことを書いておくことは大切です。
- 借金の保証人になっている
- 前婚で子供がいる etc
他にも色々あると思いますが、保証人になっているかどうかは自分しか知らないことの代表格かもしれません。前婚で子供がいることは保証人とは違って資産の情報と関連性が低いと思うかもしれませんが、こと相続に関してはとても重要です。
前もってわかっているのと知らないのでは相続が開始した後での対応は大きく変わってきます。直接話しておくことができればそれにこしたことはありませんが、伝えにくければエンディングノートに書いておくのも1つの方法でしょう。
⑥遺言の有無や保管場所を書いておこう
エンディングノートに遺産分けの希望を書いたところで「遺言」としての効力はありません。にもかかわらず「遺言について」というページがあるのは、遺言を作成しているのかどうか、作成していれば保管場所などを書き留めておくためです。
遺言を書いていない人が多いので「作成していない」にチェックして終わることがほとんどかもしれませんが、それじゃもったいない!
僕は遺言は全員が書いておく必要はなく、自分の財産を誰にあげるのかについて自分で確実に決めておきたい人が書いておけばいいと考えています。とはいっても遺言を書いておかないとトラブルになる可能性が高いケースはあります。
関連|遺言を書いておいた方がいいのか?迷ったときに読むページ
エンディングノートの家族や親族のページを書きながら、まずはこの2点を把握しておきましょう。
- 自分の相続人は誰なのか?
- 自分は誰の相続人になるのか?
これを把握した上で、遺言を作るかどうか?相続人の立場なら遺言を書いてもらっておく必要はないのか?について早めに考えておくことが大切です。
⑦見た目や形式にこだわらない
必要なときに書き留めておくノートがあって、結果的にエンディングノートに書いておきたい情報がそこに整理されていくのであれば、それが普通のノートでもまったく問題ありません。エンディングノートの見た目や形式なんてどうでもいいということ。大事なのはその中身です。
見た目は普通のノート。でも中身は
父が祖父母の葬儀の時に書いていたというメモを見せてくれました。それはメモというレベルではなく、ごく普通のノートに何ページにも渡って葬儀に関することがこまごまと書いてありました。
見た目は100均で売っているような普通のノートでしたが、パラパラと見せてくれた中身は完璧すぎるエンディングノートでした。
祖母が亡くなる前の数日について日記的なことも書いてあって、さすがにそれには気が付かない振りをして返したけど、どんな内容なのかとても気になりました。
もう20年以上前になりますが、正月に祖母が入院していた病院を訪ねて結婚の報告をしたときが僕が祖母に会った最期になりました。僕にとっては祖母というよりも母代りだったので、祖母の最期について知りたいという気持ちもありましたが、やっぱり見てはいけないと思いました。
見た目や形はいわゆるエンディングノートには程遠いけど、父は父なりに父自身も気が付かないうちにエンディングノートに代わるものを準備している。父の書いたノートを見てそう思いました。
また、エンディングノートというネーミングなので当たり前のように紙媒体をイメージしますが、ネットバンキングやSNSがライフラインになっている現在ではノート(紙)だけで完結させるのは無理があるのかもしれません。
エンディングノートは手書きしないといけないと思いこんで、それが書けない理由になっているとしたらもったいないです。必要な時に必要な情報が確認できるならパソコンなどを活用してもまったく問題ありません。
⑧定期的に見直して情報の鮮度を保とう
体調や心境、交友関係などすべてが時間とともに少しずつ変化していくものです。エンディングノートに限ったことではありませんが、一度書いたところで時間とともに書いた内容はどんどん古くなっていきます。定期的に見直して情報を更新する必要があります。
自宅の防災用品の点検をしたときに古くなっていた非常食や防災グッズを買い直しましたが、賞味期限・使用期限が5年というものが多かったですね。毎年、見直すのがベストだとしても忘れてしまって2,3年経ってしまう人が多いのでしょう。それでも期限が切れてしまわないように、余裕を持たせて5年にしているんだろうと実体験として感じました。
エンディングノートも定期的に見直さないと意味がありません。
理想を言えば年に1度、誕生日や年末年始に見直すのが良いタイミングだと思います。最近は出さないという方も増えてきましたが、年賀状のリストなら毎年見直すだろうと思うので、エンディングノートの緊急時の連絡先の見直しを中心に12月に全体を見直すのはいかがでしょう?
⑨エンディングノートを書くことはスタートです
書いておきたいと思ってもほとんどの人が書いていないのがエンディングノートの現実です。だから、もし書くことができたらそこで満足するのは本当にもったいないです。エンディングノートを書くだけで十分なんてことはほとんどないからです。
亡くなった後の手続きはもちろん、入院や施設の入所手続きなど必要なときには自分ではできないこともありますが、葬儀やお墓の準備は前もって契約しておけるので自分の思い通りに準備しておくことができます。考え方次第ではエンディングノートに書いておくよりも自分でやってしまう方が早いし確実です。
書き終えることがエンディングノートのゴールではありません。書いておきたいほど気になっていることを実現するために、エンディングノートを書くことをきっかけにして行動を起こしましょう。
エンディングノートを書くことはスタートです。
この9箇条が本当に役に立つのか?を検証してみた
この9箇条の内容ならきっと役に立つだろうと自負していましたが、実際の事例で検証できていなかったことがずっと引っかかっていました。
9箇条を実践して完成した義母のエンディングノート
義母のエンディングノートは、義母の病気が進行するに伴い、娘である相方が義母に聞き取りをすることで完成したエンディングノートです。そういう経緯があったので、相方が義母から聞き取りをする際は僕が常々言っている「もしものときに本当に役に立つエンディングノートの作り方」の9箇条を実践してもらいました。
- ①書きにくいからこそ医療と介護のページから書こう
- ②エンディングノートは本音で書こう
- ③必要最小限の言葉の意味を理解してから書こう
- ④正確な情報を元に書こう
- ⑤個人情報は書きすぎない
- ⑥遺言書の有無や保管場所を書いておこう
- ⑦見た目や形式にこだわらない
- ⑧定期的に見直して情報の鮮度を保とう
- ⑨エンディングノートを書くことはスタートです
義母のエンディングノートは僕が提案する「もしものときに本当に役に立つエンディングノートの作り方」を実践して完成した貴重な事例ということになります。
親族として葬儀やその後の手続きに関わる中で義母のエンディングノートはとても役に立っていたと思います。
関連|エンディングノートは本当に役に立つのか?|義母のエンディングノートの場合
9箇条を実践したことが、義母のエンディングノートが家族の役に立つエンディングノートになった理由だと僕は自負していますが手前味噌に感じる方もいるでしょう。
それに僕は相続人ではないので、相続人である相方に義母が遺したエンディングノートに対する率直な感想やエンディングノートについて感じていることを聞いてみたいと思いました。とはいっても内容が内容なだけに家族であっても気軽に話ができるものではありません。
また義母のエンディングノートをまるで実験台にするようで気が引けていたというのも正直なところでした。
さらに、こんな考え方は全然使えないとか、現実には無理だといった問題が白日のもとに晒される可能性もあります。でも、いつまでも机上の空論を続けていても意味がありません。
僕の活動をいつも応援してくれた義母が最期に僕に遺してくれた絶好の機会と考えて相方の協力を得て思い切って検証してみます。
義母から聞き取りをしてエンディングノートを完成させた妻にヒアリングしてみた
義母のエンディングノートを傍に置いて葬儀や納骨、相続手続きなどを行った娘であり相続人の相方にエンディングノートを書いていたときのことや、亡くなった後のことについて率直な思いを聞いてみました。9箇条の項目ごとに整理しています。
①書きにくいからこそ医療と介護のページから書こう
母は「医療について」のページは書いていませんでした。大事なことですがやっぱり書きにくかったのかもしれません。
もしものときになったら本人の意向を知らずに決めるのは負担が大きいので、絶対に聞いておきたかったのでちゃんと話をしました。母も家族に自分の想いを伝えておきたかったようでエンディングノートに書き留めることができました。
胃ろう(経管栄養)はしたくないと前もって聞いていたので、胃ろうをするかどうかの判断を求められたときは迷うことなく病院に伝えることができました。
絶対に聞いておきたい項目ですが、とてもデリケートな問題なので延命治療の希望など医療のページから書き始めるのは難しいかもしれません。
基本情報は家族なら知ってて当然なので書く優先順位は低いのですが、エンディングノートを書くためのウォーミングアップだと思えば基本情報から書き始めるのがいいと思います。ただし基本情報で止まってしまわないような工夫は必要だと思います。
②エンディングノートは本音で書こう
我が家の場合、母が余命宣告されてから母に聞き取りをしながらエンディングノートを仕上げたので遠慮している暇はなかったと言うのが本当のところです。お互い待ったなしで膝をつき合わせて話したので本音で話ができたと思います。
母も元気な時であれば「クリスチャンになって教会でお葬式をして欲しい」とは言えなかったと思います。母が最期の最期にクリスチャンになりたいと言い出すとは誰も想像していなかったのですが、本当に自分の最期を覚悟しての行動だったと思います。
私も「また今度聞こう」とか「また考えが変わるかも」と思うこともなく本気で聞き取りをしました。どんなお花を飾りたいか、棺には何を入れたい、、、というようなことまで具体的に話をしました。そのおかげでほとんど迷うことなく母の希望を叶えられたと思うので後悔はありません。
③必要最小限の言葉の意味を理解してから書こう
母も私も「尊厳死」の意味を十分に理解できていなかったので、尊厳死の項目は?マークを付けてそのままにしてしまっていました。医療に関する専門用語などは特に意味がわからないまま書いたところで希望が正確に伝わるとは思えません。
④正確な情報を元に書こう
通帳や証書を見ながら母が預貯金・保険の項目は書いていてくれたので預貯金や保険の手続きはスムーズでした。
正確な内容を書いておいて欲しいのは財産に限った話ではなく健康面や病歴についても同じです。私は近くに住んでしょっちゅう会っていたので目新しい情報はありませんでしたが、もし離れて暮らしているなら病歴や服用している薬については正確に把握しておきたい情報だと思います。
⑤個人情報は書きすぎない
預貯金がいくらあって保険がいくらおりるということから暗証番号まで母から包み隠さず知らされていました。暗証番号はセキュリティの面からエンディングノートには書かずに口頭で聞いてきました(私にとって覚えやすいものだったのでメモの必要がありませんでした)。
そもそも母から生活費の管理等をまかされていて通帳や実印を預かっていたので隠しようもなかったと思います。
もし借金があったり保証人になっていれば、直接言えなくても相続の時に知っておきたいことなのでエンディングノートには書いておいて欲しいと思います。
⑥遺言の有無や保管場所を書いておこう
母は遺言は準備していませんでした。エンディングノート、事前に撮影していた遺影、棺に入れて欲しい写真、保険証書、実印、年金手帳などは実家の本棚にまとめていると聞いていたので必要なときに探す手間が省けてスムーズでした。
すべての情報をエンディングノートに記入しようとしなくてもエンディングノートを書きながら必要な書類を集めてまとめておくだけでもずいぶん助かります。
また、遺産については相続人(兄と私)で平等にわけるようにと口頭で伝えられていました。もし疎遠になっている相続人がいれば口頭の確認だければ法的効力もないので揉める元になるかもしれません。
これだけはと他にも3つほどお願いされたものがありましたが、いずれも口頭でそれが遺言だと受け止めています。
また、我が家の場合は基本情報や家族構成の項目は知っていることだけだったので見返すことはなかったですが、それはその家族によって違うと思います。
死後に初めて遺族がエンディングノートを見るという場合は普段面と向かって言えないことを書くことも有効だと思います。もしも私たちが知らない兄弟姉妹がいたとしたら葬儀の連絡もできませんし、相続手続きは大変な負担になったと思います。
⑦見た目や形式にこだわらない
先に書いたように我が家では重要な書類はすべてエンディングノートと一緒に保管されていました。これだけでも遺族にとっては負担がずいぶん減ります。エンディングノートですべてを賄おうと気負って書き始めなくても、エンディングノートはもしものときのことを考えるきっかけの1つになるものだと思います。
⑧定期的に見直して情報の鮮度を保とう
もしものときに誰に連絡するのか?は母と一緒にスマホの連絡先を見ながらグループ毎にキーマンを決めて連絡先をエンディングノートに書きだしました。ここが一番助かった項目かもしれません。スマホを見ながらだと交友関係を漏れなく把握できるのでおすすめです。
病気のことはオープンにしていたので入院するまで沢山のお友達が母のお見舞いに来てくれていました。
亡くなったときのお知らせは母のスマホから送りました。病気のことが前もって伝わっていたので滞りなくお知らせすることができました。
ただし、スマホだと電話番号はわかっても住所等はわからないことがほとんどです。下手したらフルネームがわからないということも考えられます。葬儀に来てくれた方にお礼の手紙やお香典返しを送りたいと思っても住所がわからないケースがありました。
そこは母が昔から使っていた手書きの住所録が役にたちました。もう何十年も前から使っているので何度も修正されていたりしましたが最後はこれに頼りました。
年賀状が役に立つこともあるかもしれません。エンディングノートの沢山の項目の中では、もしものときに連絡して欲しい人の情報は定期的に見直す方がいいと思います。
⑨エンディングノートを書くことはスタートです
エンディングノートを書きながら使っていない口座やクレジットカードを整理したり、医療費に備えるために定期預金の解約をしました。役所の手続きがしやすいようにマイナンバーカードも作りました。
エンディングノートを書き始めたことでこれもやっておこうと次の行動のきっかけが生まれました。
母は外出するのが難しくなっていたので葬儀社の下見や契約はしませんでしたが、「私の人生が終了したら」のページを書くときに2人であれこれ相談しながら記入しました。
なにせクリスチャンのお葬式というものに参列したこともありませんし、そもそもクリスチャンのお葬式にはルールがほとんどなく、故人の遺志を尊重することを第一としていたので自由にできる反面、何を決めておくべきかはっきりわからないというのが正直なところでした。とりあえずの母の希望はこんな感じでした。
- ①〇〇教会で葬送式をしたい
- ②お墓は作らず教会の納骨堂へ納骨してほしい
- ③分骨はしない
- ④香典は辞退する
- ⑤夏(8月頭)に毎年開催される教会の慰霊祭に行って欲しい
- ⑥命日頃には納骨堂へ行ってお参りして欲しい
はっきりとは言われていませんが、⑤についてはお世話になった教会の牧師さんに年に1回くらいは顔を見せて欲しい、⑥は自分がいなくなることで疎遠になるかもしれない親戚との付き合いを継続して欲しいという想いがあるように感じました。
私は牧師さんとは母が亡くなった後に初めて会いましたが、母は牧師さんとも事前に相談をしていたようでエンディングノートを見ながら葬儀の準備をスムーズに進めることができました。
エンディングノートだけでは足りないところもある
エンディングノートという言葉に引っ張られて紙媒体にこだわる必要はないと思いますが、すぐに書き込める点や持ち出しやすい点は亡くなった後の手続きをしているときに便利だと感じました。些細なメモでもエンディングノートに書くようにしていたので後でいろいろと探す手間が省けたことも良かったです。
母はSNSを利用していなかったのですがLINEとヤフーのアカウントはまだそのままになっています。SNSやネット上でアカウントを沢山持っているならパスワードの管理は紙のノートでは管理しきれないと思います。ひとり1台のご時世なのでスマホの解約やパソコンの処分も相続手続きに欠かせません。
また連絡先の整理にスマホが役に立ちました。紙のエンディングノートだけでは足りない部分もあるので他のツール等と合わせて活用するのがいいと思います。
いかがだったでしょうか?
本当に役に立つエンディングノートを作るための9箇条の視点はもしものときの家族の役に立つエンディングノートを作る上で大切なポイントを漏れなく押さえることができていると感じました。
一方で、エンディングノートを書く人が独りでエンディングノートと向き合ったとしても本当に役に立つエンディングノートを完成させることは難しそうだなとも思いました。
コラム|言葉の意味を正しく理解していますか?
本当に役に立つエンディングノートを作るためには、エンディングノートに関わってくる必要最低限の言葉の意味を正しく理解しておくことが大切です。ここではリビングウイルや成年後見制度を取り上げて簡潔にご紹介します。
リビングウィルとは?
エンディングノートとリビングウイルを同じようなものと思っている方は少ないかもしれませんが、はたして正しく理解できているでしょうか?思い込みや勘違いをしたままでエンディングノートを書いてしまうと、自分の意思とはまったく違う結果を招く恐れがあります。
公益財団法人日本尊厳死協会のサイトでは、リビングウイルは次のように説明されています。
リビングウイル
「平穏死」「自然死」を望む方々が、自分の意思を元気なうちに記しておく。それがリビングウイル(LW)です。
日本尊厳死協会のサイト
日本尊厳死協会は、治る見込みのない病態に陥り、死期が迫ったときに延命治療を断るリビングウイルを登録管理している団体です。リビングウイル(終末期医療における事前指示書)の主な内容です。
- 不治かつ末期になった場合、無意味な延命措置を拒否する
- 苦痛を和らげる措置は最大限に実施してほしい
- 回復不能な遷延性意識障害(持続的植物状態)に陥った場合は生命維持措置をとりやめてほしい
なお安楽死は次のように定義されています。
安楽死とは
死期が迫っている患者に耐え難い肉体的苦痛があり、患者が「早く逝かせてほしい」との意思を持っていることが明らかな場合でも、医師が積極的な医療行為で患者を死なせることを安楽死と呼びます。
日本尊厳死協会のサイト
リビングウイルを作成している人はどのくらい?
- 0.1%
日本でリビングウイルを作成している人はほとんどいません。アメリカでは41%がリビングウイルを作成しているのに対して、日本では0.1%ということが「延命治療で苦しまず平穏死できる人、できない人」(長尾和宏/PHP)に書いてありました。
また現在のリビングウイルは「・・・延命措置はお断りいたします。」「・・・生命維持措置を取りやめてください。」といった内容ですが、これについてはして欲しいという選択ができる内容へ見直しの検討がはじめられているようです。
終末期の医療を考える上で、尊厳死を希望するか?しないのか?は避けて通れない問題ですが、リビングウイルは法的担保が十分ではないため、リビングウイルの通りに延命措置が中止されるとは限らないというのが日本の現状です。
日本尊厳死協会に入会するには?会費は?
リビングウイルについて詳しく知りたいと思い、日本尊厳死協会から資料を取り寄せました。届いた資料に入っていたものです。
- 尊厳死の宣言書
- 入会のご案内
- 返信用封筒
「尊厳死の宣言書」に署名をして、入会申込書と一緒に協会に郵送し会費を振り込みます。すると宣言書の原本は協会で保管されます。後日会員証と原本の写し2通が郵送されてくるというのが入会手続きの概要です。
原本の写しは2通もらえるので1通は自分で保管しておいて、もう1通は家族や親族に渡しておくことができます。
日本尊厳死協会の会費は次のような金額になっています。
- ①正会員 年会費 2,000円
- ②ご夫婦の場合 年会費 3,000円 注)
- ③終身会員 会費 70,000円
- ④ご夫婦の場合 会費 100,000円 注)
注)現在、公式サイトにご夫婦の場合という記載は見当たりません。
夫婦で入る場合は一人分の年会費が半額というのは割安感が大きいですね。夫婦に限定されるのか、夫婦に限らず二人以上で入会すれば割引があるのかどうかはわかりません。
それから終身会員の会費の設定が絶妙だなと思いました。7万円というのは年会費の35年分にあたるので、例えば40歳の男性が入会して平均寿命(80.21歳)まで生きたとすると、終身会員の方が年会費5年分を得する金額なんです。男性なら45歳以下で入会するなら終身会員の方がお得という感じでしょうか。
会員になると宣言書の原本を協会で保管してもらえるだけではなく、年4回会報が送られてくる、講演会に無料で参加できるといった特典があるようです。
法定後見と任意後見の違い
エンディングノートには「自分で財産の管理ができなくなった時に管理をお願いしたい人」を書いておく欄があります。これはようするに認知症などで判断能力が低下したときは誰に成年後見人をお願いしたいかということです。
同じような項目で「財産の管理をお願いしたい人について」という欄があることもあります。1つ目との違いは自分で財産の管理ができないときにという条件がついているかいないかです。
この条件があったとしてもあまり変わらないような印象を受けますが、おそらく条件がついているものは法定(ほうてい)後見についての希望で、条件のないものは任意(にんい)後見についての希望のことだと思います。
とは言っても法定後見と任意後見でいったい何が違うの?と思われる方がほとんどかもしれません。成年後見制度には「法定後見」と「任意後見」の2種類あります。
法定後見とは?
既に判断能力が衰えている方の為に、家庭裁判所が後見人等の適切な保護者を選ぶ制度です
任意後見とは?
元気なうちに、将来、自分の判断能力が衰えた時に備えてあらかじめ保護者(後見人)を選んでおくというものです
エンディングノートなので管理をお願いしたい人について希望を書いておけばいいわけですが、法定後見の場合は家庭裁判所が成年後見人を選任するため、必ずしも希望どおりになるわけではありません。
また、任意後見は管理をお願いしたい人の名前をここに書いておけばひと安心というものではなく、元気なうちにその方とどんなことをお願いするのかを公正証書で契約しておく必要があります。
成年後見人(法定後見)の候補者について
家庭裁判所に対して行う「法定後見」の申立ての書類に成年後見人の候補者を書くことができますが、必ずしも候補者が選ばれるわけではありません。
家族を候補者にしても家族の間に相続トラブルのような紛争がある場合や候補者が本人の財産を勝手に使っている場合などは、候補者以外の弁護士、司法書士といった第三者が選ばれることがあります。
また、そのまま候補者が成年後見人に選ばれても成年後見人の事務を監督する権限がある専門家の後見監督人が選任される場合や後見人が1人ではなく複数選ばれることもあります。
現在のような本格的な高齢社会では同じ世代(旦那さんや奥さん、兄弟姉妹など)に成年後見人をお願いすることは現実的ではないと思います。かといって子供世代はどうかといえば仕事で忙しくて成年後見人としての仕事にまでなかなか手が回らないというのが現実ではないでしょうか。
僕は家族の負担を考えると、たとえ費用がかかるとしても成年後見人は家族以外の第三者(もちろん信頼できる方に)にお願いしたいと思います。
ちなみに第三者というのは、司法書士や弁護士、行政書士といった士業が成年後見人の担い手として存在しています。例えば、公益社団法人成年後見センター・リーガルサポートという成年後見制度の普及と成年後見人の育成・普及のために設立された司法書士の組織があり約8,400名(2018年12月)が会員になっています。僕もリーガル・サポートの会員です。
研修や会議などで他の会員の方の成年後見業務に取り組む姿勢を垣間見ることがあります。たとえ報酬が見込めないケースや対応がかなり難しいケースであったとしても成年後見人の業務に真摯に取り組まれている方がとても多いことに毎回驚かされます。
できればそんな人に成年後見人になってもらえたら安心だし、家族も喜んでくれると思っています。
候補者である家族が成年後見人に選ばれれば第三者が選ばれた場合と違って成年後見人の報酬はかかりませんが、報酬は本人(被後見人)の財産の額や成年後見人の業務の内容に応じて家庭裁判所が判断することになります。
エンディングノート作成のサポートを必要とされる方へ
目的に適したエンディングノートが見つかればあとはご自身で書き進めていくだけですが、ひとりでは完成できるのか不安だという方もおられると思います。もしものときにご家族の負担を減らすことができるようなエンディングノート作りをサポートをいたします。
もしものときに役に立つエンディングノート作成サポート
本記事をお読みいただければ、もしもに備える目的でエンディングノートを書くときのポイントを理解していただけると思いますが、ポイントはわかったけどいざ書こうとすると書けない、どこから書いたらいいのかわからなくて書けないといったサポートを必要とされる方が対象です。
3回の個別相談(1回2時間)で伴走型でエンディングノート作りをサポートします。進捗を見てペースを上げることも可能ですが3ヶ月で完成を目指します。
エンディングノートはお持ちのものがあればそれを使うこともできますし、お持ちでなければ私の義母が使っていた「相続あんしんナビノート」を差し上げます。エンディングノートによって項目が異なるのでこちらはあくまでも一例ですが、もしものときに本当に役に立つエンディングノートを一緒に完成させましょう。
- 1回目 医療と介護、葬儀とお墓
- 2回目 家族、親族
- 3回目 資産について
依頼者ご自身のエンディングノートではなく、依頼者の方が親御さんの話を聞きながら親御さんのエンディングノートを完成させる場合にもご活用いただけると思います。
ご相談・お問合せ
司法書士・行政書士 伊藤 薫