多くの方がそう感じたように僕もコロナがきっかけで心境の変化がありました。当たり前だと思っていたことが当たり前じゃなくなるのを目の当たりにして将来への漠然とした不安が一気に大きくなりました。
そこで相続に関する不安を減らすために夫婦揃って新たに遺言を作り、自筆証書遺言書保管制度を利用して法務局に遺言を預けることにしました。制度に対する率直な感想や遺言を作り直したことでの心境の変化について書き留めました。
新たに遺言を書こうと思った3つの理由
- コロナ禍で心境の変化があったから
- 検認の必要がなく使い勝手が良さそうだったから
- 自分で使ってみると善し悪しがよくわかるから
心境の変化
個人事業主なので、自分にもしものことがあれば個人名で契約しているものが多く解約などの手続きに相続人全員の同意が求められると未成年の子供が二人いるので手間が掛かって大変だなと思っていました(遺産相続以外でどこまで求められるのか?は、わかりませんが)。
そこで遺言で相方を遺言執行者に指定しておくことが安心だろうと考えて遺言を書いていましたが、コロナをきっかけに僕だけではなく相方にも遺言の必要性を理解してもらうことができました。
コロナ禍に家族全員でマイナンバーカードを作りましたが、子供のカードは親権者であっても受け取れないらしく、「お子さんを連れて来てください」と言われたことが相方に本人確認の厳しさを理解してもらうには十分でした。
僕にとっては遺言を見直そうという気持ち、相方にとっては遺言を作ろうという気持ちがコロナ禍をきっかけに芽生えたというのが最大の理由です。
使い勝手が良さそう
自筆証書遺言は公正証書遺言と比べて作りやすい反面、相続が起きたときには家庭裁判所で検認という手続きが必要になるのがネックでしたが、自筆証書遺言書保管制度を利用すると自筆証書遺言であっても検認の必要がなくなるのは大きなメリットだと思えたからです。
経験に勝る知識なし
既存の制度や仕組みは先人の知見や過去の事例を元に評価することができますが新しいサービスはそうはいきません。情報やノウハウが蓄積されるのを待つよりも自分で試した方が早いので自筆証書遺言書保管制度についてのご相談を受けた時に実体験としてアドバイスができるようにしておきたいと思いました。
この3つが主な理由ですがもう1つ付け加えるとすれば、コロナ禍の2020年5月からfacebookでライブ配信を始めて毎日のようにライブ配信のネタを探していたので遺言を書くこともネタにしてしまえと考えたのも正直なところです(笑)。
ライブ配信の中で宣言すると強制力になるので、やるやる詐欺にならずに済むという効果も期待しました。関連|普段の自分を発信する実験を600日続けてみた
自筆証書遺言書保管制度とは?
今回の改正の柱となるのが遺言書の作成促進でポイントはこの2つです。
- ①自筆証書遺言の書き方のルールが緩和
- ②法務局で自筆証書遺言を保管する制度がスタート
改正の背景と自筆証書遺言書保管制度の概要をご紹介します。※わかりやすさを優先して、できるだけ専門用語を使わずに書いています
改正の背景
自筆証書遺言は仏壇や金庫で保管されることが多く、なくしたり書いたことを忘れてしまったり、また相続人によって隠されたり改ざんされたりと、自筆証書遺言が適切に保管されていなかったことで相続トラブルが起きてしまうという課題がありました。
自筆証書遺言書保管制度の概要
2020年7月10日から自筆証書遺言を法務局で保管するサービスがスタートしました。遺言原本だけでなく画像情報としても保管されます。
自筆証書遺言の場合、家庭裁判所で検認という手続きが必要なので公正証書遺言に比べて相続手続きに手間と時間がかかりましたが、法務局で保管された自筆証書遺言は検認が不要になります。
日付の記載や押印の漏れなど形式に不備がないかどうかの確認をした上で、問題のない遺言だけが保管してもらえます。ただし、遺言の内容については確認されないので、遺言で叶えたい想いが実現できる内容になっているのかは法務局任せではなく十分に注意をして作成する必要があります。
参考「法務局における自筆証書遺言書保管制度について」法務省のサイト
自筆証書遺言書保管制度の利用レポート
①まずは法務局に予約を入れました
仕事なら前倒しで動けるのですが(自分なりの評価です)、自分のことになると全然進みません。とにかく着手しようと申請に必要な住民票を取得したところで止まってしまいました。。
保管制度を利用する際の必要書類など
- 自筆証書遺言書
- 申請書
- 本籍地の記載のある住民票
- 本人確認書類(運転免許証など)
- 手数料 3,900円(収入印紙)
この保管制度を利用するには遺言者本人が法務局に行く必要があります。預けるのが僕一人だけ、もしくは相方の代理人として僕が申請できるなら簡単だったのですが、相方と一緒に法務局に行ける日を考えていたらずるずると延びてしまいました。
ケツを決めないといつまで経っても進まないと思ったので、先に申請日の予約することにしました。例年お盆は山形の実家に帰省しているのですが、コロナ禍で帰省を諦めたので8月13日の朝一に法務局を予約しました。
なお保管制度を利用することができる法務局はどこでも良いわけではなく管轄が決まっています。
保管制度を利用できる法務局
- 遺言者の住所地・本籍地を管轄する法務局
- 遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する法務局
②申請書と遺言書を書き終えました
申請日を決めてからは早かったです。期限が決まればそこに向けて準備をするだけなので、迷いもないし言い訳もできません。
申請書は法務局のサイトからPDFデータをダウンロードして作成しました。PDFデータ上で入力できるように作られていて、はじめはとっつきにくかったのですがすぐに慣れました。
預金口座など財産を具体的に記載せずにごくシンプルな内容の遺言を作成したので1枚の用紙に収まりました。そうは言っても書いたものは遺言です。書き終えたときはなんともいえない達成感を味わうことができました。最近は手で文字を書く機会が減っているので尚更でした。
ちなみに子供の遺留分を無視した内容です。子供達が遺留分を気にする頃までには書き直す前提で書きました。関連|遺留分を無視して書いた遺言の本当の怖さ
自筆証書遺言が作りやすくなりました
自筆証書遺言は全文を自分で手書きしなければいけませんでしたが、改正により財産目録についてはパソコンで作ったり登記事項証明書や通帳のコピーを添付する方法も認められることになりました(2019年1月13日から)
- 財産の目録をパソコンで作成→OK
- 登記事項証明書・通帳のコピーをつける→OK
ご注意ください!
遺言の全文をパソコンで作成することはできません。あくまでも財産目録だけです。また財産の目録にも署名・押印をする必要があります。
③申請日にやったこと・掛かった時間
おひとり1時間を見ておいてください。
予約の電話を入れたときにこう言われました。そうは言っても早めに終わるだろうと思いたかったのですが、法務局もまだ慣れていないのでしょうね、予約の電話だけで約20分かかったので、当日は2時間位かかるのを覚悟して法務局に向かいました。

予約していた9時になるとまずは必要書類のチェックです。相方と二人別々でしたがチェックは二人合わせて20分くらいで済みました。ここで収入印紙を貼って申請するのですが、ここからはひたすら待ち時間です。
遺言には余白が必要です。
自分のこととなるとダメですね。失敗をしてもネタにしてしまおうという前提があるので詰めが甘い(苦笑)。遺言の余白部分をあんなにきっちり確認されるとは思いませんでした。
点と括弧が余白の部分に掛かっていたので、書き直しを覚悟して申請しました(汗)。
個人的な備忘録です。
- 遺言|余白をしっかり確認する!
- 遺言|1/1のようにページ数を入れる!
- 申請書|受遺者にチェックを入れるのは相続人以外の場合のみ
待つこと・・・1時間20分。
余白問題はギリギリOKでした!

10時50分にはこの画像をSNSに投稿することができたので10時40分頃には保管証を貰えたと思います。9時からなので2人で約1時間40分で終わりました。
手続きが完了したときに法務局から貰えるのは、この保管証のみです。これはカラーコピーなので原本はもう少し濃いです。遺言の写しはもらえないので、事前にコピーを取ってから法務局に預けることをおすすめします!

手続きが完了するまで法務局で待つ必要はありませんが、その日のうちに保管証を受け取る必要があります。申請時に引き換え用の番号札が貰えます。
保管制度を利用してみての感想
僕は普段、公正証書遺言作成のサポートをさせていただいているので公正証書遺言と比較してしまいますが、自筆証書遺言書保管制度の使い勝手は悪くないと思いました。以下は利用してみての率直な感想です。
公正証書遺言と比較すると安価で利用しやすい
保管制度を利用する場合は一律、収入印紙代3,900円のみです。
一方、公正証書遺言の場合は遺産の価格や財産をあげたい人の数などで公証人の手数料が変わります。例えば、総額3,000万円の財産を妻に2,000万円、子1人に1,000万円のように相続させる場合の公証人手数料は53,000円です(公正証書4枚の場合、正・謄本代2,000円を含みます)
遺言内容は自己責任でよく考えましょう
申請時に自筆証書遺言として有効かどうか?の形式的なチェックは法務局がしてくれますが、遺言の内容についてはチェックの対象外です。
この点をきちんと理解した上で保管制度を利用する必要があります。遺言で叶えたい想いを実現することができる遺言内容かどうかは専門家に相談するなりして自己責任で担保しておく必要があります。
住所等の変更手続きは面倒
引っ越しで住所が変わったときなどに法務局に変更届出をする必要があるのは少し手間かもしれません。これは遺言者が亡くなった後で相続人や遺言執行者等に確実に通知をするための仕組みなので、面倒ですが手続きを忘れないようにしておきたいですね。
公正証書遺言の場合は、変更手続きはありませんが亡くなった後に通知が来る仕組みもありません。
変更届出が必要な事項
- 遺言者の氏名、住所・本籍、電話番号
- 遺言者の戸籍の筆頭者の氏名 etc
人生にも余白が必要だ。
法務局に子供達を連れて行ったので子供達が飽きてしまわないうちに手続きを終えることができて良かったです。猛暑の中でいつ飽きるのかわからない子供達と一緒に約1時間半法務局で待つのはやっぱり負担でした。
大きな病気をしているわけでもなく差し迫った状況で遺言を書いたわけではないので、この程度の負担ならまったく問題になりません。でも、いまのうちに書いておかないと間に合わないといった状況で遺言を書くのは心身ともに相当な負担になるのは想像に難くありません。
この日は法務局に遺言を預けた足で市役所に家族全員分のマイナンバーカードを受け取りに行く予定でしたが、子供の身分証明書を忘れてしまい、予定よりも早く終わったのに一度家に戻っていたら市役所の予約時間がギリギリになってしまいました。
予約時間に遅れる程度なら大事には至りませんが、今回の経験で気になることは先延ばしにしないで出来るうちにやっておく、余裕をもって行動することの大切さが身に沁みました。
コロナ禍で先が見えないと感じたことが夫婦揃って遺言を書くきっかけでした。終わってみると清々しさというのか肩の荷をひとつおろせたような晴れ晴れとした気持ちになりました。
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司法書士・行政書士 伊藤 薫