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相続(遺産分け)をスムーズに進めたいと思ったときに読むページ【遺言がない場合】

相続は、大切な方が亡くなったというのに悲しんでばかりはいられないほど、やらなければならないことが次々に発生します。「なにから手をつければいいのかわからない」とお困りの方も多いのではないでしょうか。中には期限がある手続きもあるため先送りにするだけでは解決しません。

何から手をつければいいのかわからない相続手続き

相続手続きの中で、亡くなった方(被相続人)の遺産分けをどこから手をつけたらいいのか?

不安を感じている方に向けて、相続専門の司法書士・行政書士がまとめた記事です。わかりやすさを優先してできるだけ専門用語を使わずに書いていますが、最新の情報や相談の現場から得られた知見(相談実績1,000件以上)にもとづいていますので安心してお読みください。

相続(遺産分け)手続きの流れ

一般的に葬儀などの最後のお別れが済めば、次は遺産分け手続きに取り掛かることになります。遺産分け手続きは遺言の有無で大きく異なります。

  • 遺言が【ない】|法が定める基準で分けることになります【法定相続
  • 遺言が【ある】|原則、遺言の指定どおりに遺産を分けることになります【指定相続

法定相続】は各相続人が受け取ることができる割合しか定められていないため、相続人全員で誰が何を受け取るのかについて協議をし合意をする必要があります。この手続きを遺産分割手続きといいます。

遺言の有無で異なる遺産分け手続きの流れ

①遺言の有無の確認

まずは、亡くなった方が遺言を作成していたかどうかを調べましょう。

ご自身で保管されていた場合は、通帳・自宅の権利証などと一緒に保管している場合が多く、机の引き出し・仏壇・金庫などが保管場所として考えられます。また、身の回りではなく貸し金庫に預けていることやご家族以外の親しい知人や司法書士・弁護士などに預けられていることもあります。

法務局で自筆証書遺言を保管する新しい制度がスタートしているので、2020年7月以降は自筆証書遺言が法務局で保管されている可能性があります。

関連|夫婦で遺言を書いて法務局に預けてみた|自筆証書遺言書保管制度の利用レポート

亡くなった方が公正証書遺言を作成していた可能性があれば、遺言を作成した公証役場名・公証人名・作成年月日等がコンピューターで管理されるシステムが全国で採用されているので、公証役場で検索してみるとよいでしょう(平成元年以降)。

②相続人の確定

誰が被相続人(亡くなった方)の相続人になるのかは戸籍謄本を取得して確認します。

役所で被相続人の最後の戸籍謄本を取得すればいいと簡単に思われるかもしれませんが、実際にはかなりの手間がかかります。

というのも結婚・離婚・養子縁組・転籍などで戸籍が新しくできたり、他の戸籍へ入ることがあるので亡くなったときの戸籍だけでは相続人全員を把握することができないからです。

そのため遺言がない場合の相続の手続きでは、相続人全員を把握するために被相続人の生まれたときから亡くなるまでの全ての戸籍が必要になります。

集めた戸籍のイメージ

必要な戸籍をすべて取得できたら、それをもとに相続関係のわかる図を作成しておきましょう。

相続相関図
相続関係をまとめた図のイメージ

取得した戸籍は不動産や預貯金・株式の名義変更のたびに法務局や金融機関などでそれぞれ求められるので、提出先が多い場合は法定相続情報証明制度を利用して「法定相続情報一覧図の写し」を法務局で取得しておくことをおすすめします。

ご注意ください。

戸籍上は相続人であっても、相続放棄をした人、民法が定めている相続欠格事由(相続に関する遺言を偽造、変造、破棄、隠匿した場合など)に該当する人や、被相続人に対し虐待をしていた等の理由で推定相続人廃除の審判がされた人は相続人とはなりません。

相続事件簿|私が相続人のはずはない!?

Xさんの相続人Yさんから手紙が届いたときに、これは何かの詐欺かもしれないという反応されたAさん。

相続人は子、直系尊属(親・祖父母)、兄弟姉妹(亡くなっていればその子)、配偶者と法律に書いてあるから私がXさんの相続人のはずがないとAさんは考えます。

確かにAさんは民法に書いてあるXさんの直接の相続人ではありません。

父Xさんが亡くなった時に子供である二男Wさんが相続人になります。相続手続きをそのままにしているうちにWさんが亡くなって、その妻Cさんが相続人になります。

その後、Cさんが亡くなるのですがCさん夫妻には子供がいないのでCさんの弟であるBさんが相続人になるはずですが、CさんよりもBさんが先に亡くなっているのでCさんの甥であるAさんがXさんの相続人になってしまうというわけです。

早めに相続手続きをしないと、気づいた時には関係性の薄い人同士が相続人になる可能性があります。

Xさんの相続人は誰か?

③遺産の確定

遺産の調べ方と注意したいこと

ひとくちに遺産といってもさまざまなものがあります。現金や預貯金、不動産はもちろん、株式などの有価証券、被相続人(亡くなった方)が債権者になっている貸付金などの債権、貴金属や骨董品などの貴重な動産など見落としがないように調査をする必要があります。

また、忘れてはならないのが借金等のマイナスの遺産です。亡くなって時間がたってから多額の借金が発覚することも多いため、しっかりと調査しておく必要があります。

不動産の調査

自宅などの不動産をお持ちであれば、登記した時の権利証(登記済証・登記識別情報)、不動産の登記事項証明書を探しましょう。登記をしていない不動産の場合は権利証はありませんので、固定資産税の納税通知書を確認します。

単独で所有していた不動産だけでなく、他の方と共同で所有していた不動産は見落としがちなので、注意が必要です。また、役所で名よせ帳を確認すれば、亡くなった方がその市町村内に所有していたすべての不動産を調べることができます。

預貯金の調査

銀行預金は通帳・カードがあればその口座の残高を調べます。通帳・カードが無くても取引がありそうな銀行には口座の有無・残高を照会することできます。ただし、銀行が口座名義人の死亡を知ることで、口座が凍結されて預金が引き出せなくなることがあるため、照会にあたっては注意が必要です。

債務の調査

借用書や金融機関から送られてきた通知書などを探しましょう。支払いが口座引落しの場合は通帳からわかることもあります。亡くなった方自身の借金だけでなく、頼まれて他人の借金の保証人になっていた可能性はなかったかどうか、保証契約書などがないかも探してみる必要があります。

思い込みは禁物!

0から66・・・これは相続にまつわるある数字ですが、何だと思いますか?

これは僕が関わった相続手続きの中で最も少なかった相続人の数と最も多かった人数です。友人の司法書士は100人以上という案件もあったようですが、50人を超えれば相当な人数です。

相続人がここまで増えてしまうのは、長い間手続きをしていなかったという当事者の事情によるところが大きいわけですが、単なる怠慢が理由かというとそういうわけでもありません。

  • 亡くなった叔父が不動産を持っていると思わなかった・・・
  • 何代も前のことだから手続きは済んでいるものと思ってた・・・

他にも「自宅や主な不動産は手続きを済ませたのに、まだこんな不動産があったなんて・・・」という具合に、非課税の道路など長い間完全に忘れられていた場合もあります。

遺産分け手続きが済んだ後に不動産が漏れていたことがわかった場合や手続きを完全に忘れていた場合は、相続人が相当な人数に増えている可能性があるので、早めに手続きを済ませていた場合の何倍も手続きが大変になります。

一方で相続人が少なければ手続きが楽かというと、相続人が1人ならその通りですが、相続人がいないケースでは、相続財産管理人を選任するといった特別な手続きが必要になります。

自分には関係ないと思われるかもしれませんが、次のようなケースが該当すると聞くと、いかがでしょうか?

  • 知人にお金を貸していたけど返してもらう前に知人が亡くなって、調べてみたら相続人がいなくて(相続人全員が相続放棄をしている場合等も)、知人名義の不動産を売却して回収したいといったケース
  • 身寄りのなかった知人の葬儀費用を立て替えて葬儀をしてあげたので、知人の預金から葬儀費用を受け取りたいといったケース

手続きが済んだと勘違いしている不動産がないか?見落としている不動産(道路部分など)がないか?相続で土地や建物の名義変更を行う際は特に念入りに確認されることを強くおすすめします。

コラム|負の遺産になってしまう実家

何年も放置された実家のイメージ

プラスだけなら嬉しいのですが、相続財産にはマイナスの財産というものがあります。

プラスの財産の代表格といえば自宅をはじめとする不動産や預貯金・株式等で、マイナスの財産は借金や保証債務というところでしょうか。現金や不動産はもらいたいけど、借金があるなら相続したくないと思うのが本音ですよね。

ただし場合によっては不動産といえどもマイナスの財産になりえるし、誰も相続したくない、いわば“負の遺産”と言っても過言ではないケースもあるようです。

なにも特殊な不動産の話をしているわけではありません。相続をきっかけに、売れない・借り手がいない・家族は誰も住まないといった理由で空き家になってしまった実家は、利益と呼べるものは何もないのに固定資産税は毎年払わなければいけない。これがプラスの財産といえるでしょうか?

これまでは空き家でも建物が立っていれば、特例があり固定資産税が優遇されていましたが「空家等対策の推進に関する特別措置法」が施行されたことで、例えば建物の倒壊や保安上危険になるおそれがあると「特例空家等」に認定され、修理や取り壊しに従わなければ優遇措置を受けられなくなります。

修繕維持費や解体費といった費用が掛かるならいっそのこと手放したいけど買い手がみつからない。こんな不動産がプラスの財産とはいえませんよね。

これは他人ごとと安易に考えて済む問題ではなさそうです。総務省の調査によると全国の空き家の総数は約820万戸(平成25年10月1日時点)ですが、空き家の中で別荘や賃貸用、売却用の住宅を除いても約318万戸あります。

また空き家が増える一方で、新しい住宅もどんどん供給されているわけで、実家(我が家)は売れる、借り手が見つかる、ずっと住むから大丈夫と自信を持って言える方はどのぐらいいるのでしょうか(僕の山形の実家なんかはかなり心配ですね)。

空き家にしないためにはその不動産に価値・魅力があることは重要ですが、相続の手続きをそのままにしたことがきっかけで空き家になってしまうこともあります。

遺産分けの話し合いがまとまらないまま、おじいちゃんの名義のままで空き家になっている。なんていうのは相続のご相談を伺っているとよくある話で、今では相続人が何人いるのかもわかっていない場合がほとんどです。相続人へ名義変更ができなければ売却することができないため、そのまま空き家になってしまうことが多いようです。

空き家にしないための努力は必要ですが、既に空き家になってしまい解決が難しいと感じておられる方は、空き家の解体費用に対する自治体の補助制度や金融機関のローンなどがあるようなので活用を検討されてはいかがでしょう。

④相続の承認・放棄の手続き

相続財産(遺産)には、プラスの遺産だけでなく、マイナスの遺産もあります。場合によっては、マイナスの遺産の方が多くなることもあるでしょう。

相続人は被相続人(亡くなった方)の相続財産を承継(相続)するのか、放棄するのかを選択することができます。遺産を確定してその価値を把握することで、プラスとマイナスの遺産を比較し、相続(単純承認・限定承認)をするのかあるいは放棄をするのかを判断しましょう。

ただし、相続が開始したことを相続人が知った日から何もせずに3ヶ月が過ぎると、自動的にプラスの遺産もマイナスの遺産も全部相続(単純承認)したことになってしまいますので、限定承認または相続放棄をする可能性がある場合は注意しましょう。事情によっては3ヶ月の熟慮期間を延長してもらえることがあります。

相続の承認・放棄の手続き

限定承認は非現実的!?

限定承認は相続したプラスの遺産の中からマイナスの遺産を支払って精算するというもので、相続人が自分の財産を持ち出して支払う必要がありません。マイナスの遺産があるからといって相続放棄した後でプラスの遺産の方が多かったことが判明した場合に、悔しい思いをすることもありません。

ただし相続が開始したことを相続人が知った日から3ケ月以内に家庭裁判所に相続人全員で申述する必要がありますし、申述の際は、遺産目録を作成しなければなりませんので、手間がかかります。

また、債権者のために官報に公告をしたり、返済のために遺産を処分したりする必要があり、これらの手続きを弁護士に依頼すれば費用もかかります。

最終的にプラスとなるのか、プラスであってももろもろの費用がかかれば、ほとんど手元に残らない可能性があるので、結局はプラスマイナスを見極めて、単純承認をするのか相続放棄をするのかを選択したほうが簡単かもしれません。

⑤遺産分割手続き

ここまでくれば、遺産分割手続きの事前準備としてこういった内容がはっきりしていると思います。

  • 相続人は誰か?
  • 遺産は何があるか?
  • 遺産はいくらか? etc
  • 遺言が【ない】|法が定める基準で分けることになります【法定相続
  • 遺言が【ある】|原則、遺言の指定どおりに遺産を分けることになります【指定相続

法定相続】は各相続人が受け取ることができる割合しか定められていないため、相続人全員で誰が何を受け取るのかについて協議をし合意をする必要があります。

この話し合いを遺産分割協議(いさんぶんかつきょうぎ)といいます。

遺産分割協議をまとめるための3つのポイント

遺産分けの話し合いをスムーズに進めるために十分に検討しなければならない3つのポイントをおさえておきましょう。

①相続する割合はいくらか?

仮に3人の子どもが相続人の場合は、原則は3分の1ずつ同じ割合で相続しますが、被相続人から生前贈与や遺贈を受けている子供がいる場合は現在の遺産のみを対象として、同じ割合で遺産を分けたのでは納得できない相続人もいるでしょう。

また同居して親の面倒をみてきた、親の介護をしたといった事情があれば、同じ割合で分けることに納得いかない場合もあるでしょう。法定相続分通りに同じ割合で分けようとしてもすんなりいかないことを理解しておく必要があります。

②誰が遺産分割協議に参加するのか?

相続人の中に、認知症で判断能力が十分でない方や行方不明の方がいて相続人本人が遺産分割協議に参加できない場合は、成年後見人、不在者財産管理人などの代理人を選任して遺産分割協議を行うことになります。

相続人の中に未成年者がいれば親権者が代わって遺産分割協議に参加することになります。ただし、親権者も相続人の場合は未成年者について特別代理人を選任する必要があります。

また、法定相続人のほかに、包括受遺者・相続分譲受人がいれば遺産分割協議の当事者となります。

遺産分割協議に代理人が必要な場合があります

③どうやって遺産を分けるのか?

遺産分割の方法で分かりやすいのは、各相続人がそれぞれ遺産を受け取る現物分割です。簡単に分けることのできる現金なら問題ありませんが、不動産などの場合、相続人の数だけ遺産があるのか、また同じような価値の遺産なのかなどを検討する必要があり、簡単にはいかないことが多いものです。

現物分割の他に、遺産を現金化して分ける換価分割があります。現金化といっても例えば自宅を売却する場合は、自宅に相続人などの誰かが暮らしているならば難しいでしょう。また、代償分割といって、例えば自宅は長男が受け取る代わりに、長男が他の相続人に相続分に見合う対価を支払うという方法もあります。

分割方法方法具体例
現物分割不動産、預貯金、株式などの
遺産を各相続人がそれぞれ
受け取る方法
自宅は長男が、
預貯金は次男が、
株式は三男が受け取る
換価分割遺産を売却して
その代金を各相続人で
分ける方法
自宅を売却して
その代金を
子供3人で分ける
代償分割受け取る遺産の
価格の差を埋めるために、
対価を支払う方法
長男が1,500万円の価値の
自宅を受け取るかわりに、
長男が次男、三男に
それぞれ500万円ずつ支払う

とりあえず「共有」にするのはもったいない!

共有にすると揉める火種になるというのが不動産を共有することをおすすめしない最大の理由ですが、他にも理由があります。それはもっと単純な話で、将来的に土地を分けて(分筆)、共有状態を解消するつもりなら、とりあえず共有の相続登記をするのは手間と費用が余計に掛かってしまうからです。

土地や建物を相続する時、例えば兄弟で持分を2分の1ずつというように共同で所有(共有)することができます。

共有はあまりおすすめできませんが、現在売りに出している、近いうちに手放す予定だという事情があるときはよくあることです。ただし、2人、3人ならまだしも、4人、5人と共有する人数が多くなると売却や登記の手続きが煩雑になるのでやはり考えものです。

一方、売却する予定はなく、いずれは土地を分けてそれぞれ単独で所有したいという場合もあると思います。

この場合、今すぐは土地を分けずに、とりあえず遺産分割協議をして相続人が共有する相続登記をするのはあまりおすすめできません。「うちは兄弟の仲がいいから共有にしていても特に問題は起きないし」とか「土地を分ける(分筆登記)には測量に費用がかかるからそれぞれで所有にする必要が出てから分けよう」という気持ちはわかります。

ひとまず共有の相続登記をするのは、はじめに土地を二つに分けた後でそれぞれ単独所有となる相続登記をするのと比べて手間と費用が余計に掛かってしまうことがおすすめできない理由です。

なぜ手間も費用も余計にかかってしまうのか?は登記の手続きの流れを理解するとよくわかります。

1.先に土地を二つに分けた場合の手続きは次のようになります。

  • ①土地を二つに分ける【分筆登記】
  • ②遺産分割協議をして、それぞれの土地をA、Bが単独で所有するような名義変更をする【相続登記】

2.土地を二つに分ける前にとりあえず共有で相続登記をした場合

  • ①A、Bが共同所有するように土地の名義変更をする【相続登記】
  • ②土地を二つに分ける【分筆登記】
  • ③土地の片方をAの単独名義にするため、Bの持分を「共有物分割」を原因としてAに移転する【移転登記】
  • ④同じようにもう一方の土地をBの単独名義とするためにAの持分をBに移転する【移転登記】

※遺産分割協議をせず、法定相続分で①の登記をしていた場合、③は「共有物分割」ではなく「遺産分割」になります。

2.の方が手間と費用が余計にかかる理由は、A、B共有名義の土地を単に2つに分けた状態では、どちらの土地も二人の共有のままだからです。それぞれを単独所有にするために持分を移転する必要があるので手間と費用が余計にかかってしまうというわけです。

美味しいものは仲良く分けた方がより美味しく感じるような気がします。分けやすいように先に切っておくといいのはバームクーヘンに限らないみたいです。

美味しいバームクーヘンも切らないと分けにくい

マイナスの財産はどう分けるの?

遺産分けというと、不動産は誰がもらうとか、預貯金は誰がもらうとか、どうしてもプラスの財産をどう分けるのかということに目がいきますが、忘れてはいけないのがマイナスの財産です。

お父さんが亡くなり相続人は二人の息子だけという場合で、お父さんの遺産といえば、自宅(プラスの財産)と自宅を購入するために借りた住宅ローン(マイナスの財産)だけだったケースを見てみましょう。

話し合いの結果、自宅は、お父さんと同居していた長男がもらうことになり、もちろん、残った住宅ローンも長男が引き継ぐということになりました。その内容をしっかり遺産分割協議書にして、自宅の名義も長男に変えて、揉め事もなく相続手続きも済んだと安心していたのですが・・・

ある日、次男あてに金融機関(債権者)から住宅ローンの支払いについて、お知らせが届きました。内容は、ローンの支払いが滞っているので、次男に支払いを請求するというものでした。どうやら長男は、事情があってここ何ヶ月かローンの支払いが出来なくなっていたようです。

次男は金融機関に遺産分割協議書を見せて、「自分は自宅はもらわなかったし、住宅ローンだって兄貴が引き受けたんだから、自分には関係ない」と主張できるでしょうか?

住宅ローン(借金)のようなマイナスの財産は、相続人の意思で誰が引き継ぐのか決めることは有効ですが、金融機関(債権者)にそれを主張することができません。言い換えると、借金のようなマイナスの財産は、法定相続人が法定相続分に従って、法律上当然に借金を引き継ぎます。

今回の例では、仮に住宅ローンの残金が2,000万円であれば、相続人である二人の息子は当然に、それぞれ1,000万円の住宅ローンを引き継ぐというわけです。

これは遺産分割協議で意図的に特定の相続人に全ての借金を相続させて、その相続人が自己破産をしてしまうと、お金を貸している金融機関(債権者)は困ってしまうため、債権者を守るような仕組みになっているからです。

ただし、実際には、金融機関(債権者)の同意があれば、法定相続と異なる遺産分割も可能なので、免責的債務引受(めんせきてきさいむひきうけ)といった方法で特定の相続人だけが借金を引き受けることもできます。

住宅ローンを引き継いだ長男が問題なく支払いを続けていれば、金融機関から次男が支払いを請求されることはなかったわけですが、無事に済んだと思った遺産分割協議が、思わぬところで落とし穴にならないように対策を取られることをおすすめします。

話し合いがまとまらなければ・・・

相続人だけで遺産分割協議がまとまらなければ、家庭裁判所に調停を申し立て第三者を交えて話し合うことになります。調停で話し合いがまとまらなければ、審判に移行し、裁判所の判断にゆだねることになります。

ただし、審判までいったとしても、結局は法定相続分で分割することになる可能性もありますし、時間や費用もかかります。最悪の場合、争いが元で人間関係が修復不可能になることもあります。

遺産分割協議がまとまらない場合

⑥相続財産の名義変更手続き

遺産分割協議がまとまり、誰がどの遺産を受け取るのかが決まれば、不動産なら名義変更の手続き(相続登記)、預貯金なら名義変更または払戻しなど遺産分割協議書に基づき遺産の名義変更を行います。

不動産の名義変更に必要となる書類等

  • 被相続人(亡くなった方)の生まれた時から亡くなるまでの戸籍・除籍謄本等
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 相続人の住民票の写し
  • 遺産分割協議書および印鑑証明書
  • 固定資産税の評価証明書 など

預貯金の名義変更に必要となる書類等

  • 被相続人(亡くなった方)の生まれた時から亡くなるまでの戸籍・除籍謄本等
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 遺産分割協議書および印鑑証明書
  • 各金融機関所定の依頼書
  • 通帳・印鑑 など

⑦相続税の申告・納付

遺産分けの最後の手続きは相続税の納付です。実際に相続税を納めなくてはならないケースは死亡者数の数パーセントですので、必ずしも相続税を納めなければ ならないわけではありません。

大阪国税局では約9%
令和元年分における被相続人数(死亡者数)は 216,094 人(前年対比 100.7%)でした。そのうち相続税の申告書の提出に係る被相続人数は 18,448 人(同 97.0%)で、その課税価格の総額は 2 兆 4,980 億円(同 92.9%)、申告税額の総額は 3,060 億円(同 87.2%)でした。(大阪国税局)

国税庁のサイト

ただし、平成27年1月1日以降に亡くなられた方ついては相続税の仕組みが大きく変わり、今まで相続税がかからないと思われていた方でも相続税がかかる可能性が出てきました。

具体的には相続税の基礎控除が次のように変わりました。相続人3人の場合、これまでは被相続人の遺産の総額が8,000万円を超えていなければ相続税を納める必要がなかったのに、改正後は4,800万円を超えていれば相続税を納めなければならないことになります。

 相続の時期 基礎控除額 相続人3人の場合
 改正前
(平成26年12月31日までの相続)
 5,000万円

1,000万円×法定相続人の数
  5,000万円

1,000万円×3人=8,000万円
  改正後
(平成27年1月1日以後の相続)
  3,000万円

600万円×法定相続人の数
   3,000万円

600万円×3人=4,800万円

配偶者控除・障がい者控などの仕組みはありますが、まずは遺産の額(課税価格)が基礎控除の額を超えているのかを簡単に計算してみましょう。

相続税の考え方

課税対象になれば相続税は相続が開始してから10ヶ月以内に申告、納付しなければいけません。

相続(遺産分け)手続きの具体的な進め方

遺産分けから名義変更までの流れ

相続(遺産分け)手続きの進め方
  • 1)不動産の名義変更および預貯金の名義変更等に必要になります。
  • 2)依頼者がご自分で取得することも可能です。
  • 3)不動産は、権利証(登記済証・登記識別情報)、不動産の登記事項証明書、固定資産税の納税通知書、名よせ帳をもとに調べる方法が考えられます。
  • 4)銀行預金は、銀行に口座の有無、残高を照会する方法で調べることが考えられます。銀行が口座名義人の死亡を知ることで、口座が凍結されて預金が引き出せなくなることがあるため照会にあたっては注意が必要です。

相続に関連した不動産登記の手続きは、亡くなった方の生まれたときから亡くなるまでの戸籍謄本等をすべて取得しなければならず、相当な労力をとられる場合があります。また、遺産分割協議書などの専門的な書類を誤りなく確実に作成することは難しいものです。

登記の専門家である司法書士が関与することで、必要な戸籍は見落としなく整い、名義変更に欠かせない遺産分割協議書などの専門的な書類は誤りなく確実に作成することができます。参考までに不動産の名義変更をする際に当事務所でサポートさせていただく事項を併記しております。

当事務所でお手伝いできる項目

  • 戸籍謄本の取得
  • 相続関係のわかる図面の作成
  • 遺産分割協議書の作成
  • 遺産分割協議に基づいた相続登記(不動産の名義変更) etc

遺産分け手続きでよくある質問

遺産分け手続きを具体的にイメージできるように事例を元に解説します。亡くなった方が遺言を残していなかった2つの事例を用意しました。

よくある一般的なケース(A子さんの事例)と手続きが困難になりそうな少し込み入ったケース(B子さんの事例)です。よくある質問を通して理解が深まるようにと考えてQ&A形式でまとめました。できるだけ具体的な状況をイメージしながら読んでいただければ幸いです。

よくある一般的なケース|A子さんの事例

先月父が亡くなり、自宅の土地と建物、預貯金が遺産として残りました。遺言はありません。家族構成は、母と、子供は私と姉と弟の3人ですが、姉は数年前に亡くなっています。

私は両親と同居しており、今後も母と同居して面倒を見ていくつもりなので、自宅は私が取得したいと考えています。

弟は独立して家庭を持っており、2年前に父からマイホーム購入の頭金として1,000万円を出してもらっていたこともあって、私が自宅を取得することを承諾しています。

今後どのような手続きが必要になるのかわからず困っています。

父の相続人になるのは、母と私と弟ですか?

遺言がなければ、民法が定める基準(法定相続)で分けることになります。

まず、亡くなられたお父さんの配偶者であるお母さんが相続人になります。次に、子供であるA子さんとご兄弟が相続人になります。お姉さんはお父さんより先に亡くなられているので、お姉さんが相続するはずの相続分が、そのお子さんに受け継がれます。これを代襲(だいしゅう)相続といいます。

そうすると、お父さんの相続人は、お母さんと子供であるA子さんと弟さん、そしてお姉さんの息子さんということになります。相続分はお母さんが2分の1で、他の方は6分の1ずつとなります。

相続を承認するか放棄するか選べると聞いたのですが、何か手続きが必要ですか?何もしないでおくとどうなりますか?

相続の承認も放棄も届け出をする義務はありません。ただし相続が開始したことを相続人が知った日からなにもせずに3ヶ月が過ぎると、自動的にプラスの遺産もマイナスの遺産も全部相続したことになってしまいます。これを単純承認といいます。

もし、お父さんに多額の借金があった場合は、借金(マイナスの遺産)も相続財産のうちですから、相続の放棄をしない限り、その返済債務も相続人が受け継ぐことになります。また、お父さん自身の借金ではなく、お父さんが頼まれて他人の借金の保証人になっていた可能性はありませんか?念のため、保証契約書などがないかお探しになってみてください。

遺産分割協議とは具体的にどういうことをするのですか?

相続人が遺産をどのように相続するかについて、民法では、遺産総額の何分のいくらかという割合でしか規定がないので、実際には誰がどれだけ、どの遺産を受け取るのかについては、法律とは別に相続人どうしの話し合いによって決めることになります。これを遺産分割協議といいます。

本ケースであれば、お父さんの遺産である自宅の土地と建物、預貯金を「誰が」、「何を」、「いくら」受け取るかということを決めることです。なお、この遺産分割協議は相続人全員の意見が一致する必要があり、多数決ではすることができません。

不動産の名義変更はいつまでにしなければいけないのですか?

何ヶ月以内にしなければいけないといった法的な決まりはありません。しかし、不動産を売却しようとする時や不動産を担保にお金を借りる時など、名義変更(相続登記)をする必要が生じた場合に慌てないためにも、遺産分割協議がまとまり次第済ませておくことをおすすめします。

何代も前から遺産分割協議及び名義変更(相続登記)をしないで放置している場合は、相続人が非常に多くなったり、相続人どうしが疎遠だったりと遺産分割協議が難航することも考えられます。

注)2024年4月1日相続登記の申請を義務化する法律が施行されます

相続税を納めなくてはいけませんか?

本ケースでは、遺産の額(課税価格)が基礎控除の額を超えていないので、相続税の申告義務も納付義務もありません。

A子さんのケースは、話し合いの結果、自宅の土地と建物はA子さんが受け取り、預貯金からお母さんが3,000万円を、お姉さんの息子さんが1,000万円を、弟さんは今回は何も受け取らないということで話がまとまりました。

A子さん|自宅の土地と建物
お母さん|預貯金3,000万円
お姉さんの息子さん|預貯金1,000万円
弟さん|何も受け取らない

手続きが困難になりそうなケース|B子さんの事例

数ヶ月前に父が亡くなりました。遺産と言えるのは自宅の土地と建物ぐらいでしょうか。遺言はありませんでした。家族構成は、母と子供は私1人です。父は母とは再婚だったため、父と前妻との間にCさんという息子が1人いるようですが、まったく面識がありません。

母が高齢のため今後は同居して面倒をみていくつもりなので、自宅は私名義に変更しておきたいのですが、母は認知症の傾向があり、父が亡くなってから症状が悪くなっているようです。

今後の手続きをどのように進めていいか分からず困っています。

父の相続人になるのは、母と私ですか?

まず、亡くなられたお父さんの配偶者であるお母さんが相続人になります。次に子供であるB子さんと、お父さんと前妻との間の子供であるCさんが相続人になります。

前妻は相続人にはなりませんが、前妻との間の子供であっても子供にかわりはありません。相続分はお母さんが2分の1で、B子さんとCさんは4分の1ずつになります。

認知症の母を交えて協議できるか心配です。

有効な法律行為をするための判断能力が十分ではないと判断されると、遺産分割協議はお母さんのために成年後見人の選任を申し立てて、その後見人がお母さんに代わって遺産分割協議を行う必要があります。

成年後見人には司法書士、弁護士等の第三者を選任することや、家族がなることもできますので、B子さんがお母さんの成年後見人に選任される可能性もあります。費用(成年後見人の報酬)を考えれば、家族が成年後見人になる方が負担は少ないでしょう。

ただし、もしB子さんが成年後見人になった場合、B子さんも遺産分割協議の当事者ですから、いくらお母さんに不利にならない結果であっても、遺産分割協議にお母さんの成年後見人として参加することはできません。

その場合は、遺産分割協議の当事者でない第三者を後見監督人として選任するか、特別代理人の選任を申し立てる必要があります。

Cさんから法定相続分を請求されていますが、父の主な遺産は自宅だけで、Cさんの法定相続分に見合う遺産はありません。Cさんは、自宅を売ってその代金から4分の1をもらえればいいと言っていますが、自宅を売るつもりがないので困っています。

この場合、代償(だいしょう)分割という方法があります。例えば、B子さんが自宅を受け取るかわりに、B子さんがCさんにCさんの法定相続分に見合う金銭を支払う方法です。ただし、この方法は法定相続分に相当する資金がなければ難しいかもしれません。

相続(遺産分け)の手続きの費用について

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司法書士・行政書士 伊藤 薫

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