遺産分割とは?
遺言書がなければ相続人全員で誰が何を受け取るのかについて協議をし、合意をする必要があります。この話し合いを遺産分割協議といいます。
話し合いがまとまりにくい理由やスムーズな遺産分割をする上で重要になる3つのポイントを解説します。
目次【本記事の内容】
遺言がないと話し合いが必要
相続が発生した際に「遺言書」があれば、原則「遺言書」の指定どおりに遺産を分けることになります(指定相続)
一方で「遺言書」がなければ、法が定める基準(法定相続)で分けることになります。
ただし、各相続人が何を受け取れるかについては、割合でしか定められていないため、相続人全員で誰が何を受け取るのかについて協議をし、合意をする必要があります。
この話し合いを遺産分割協議(いさんぶんかつきょうぎ)といいます。
相続争いが起きる理由
この遺産をどう分けるのかの話し合い(遺産分割協議)がまとまりにくいから揉めるわけです。
遺産分割協議は、相続人それぞれが自己主張をしだすと収拾がつかなくなるおそれがあります。さらに相続人だけではなく、その配偶者や親戚など周りが口をはさんでくることも遺産分割協議が難航する原因となっています。
もし亡くなった方が資産家で分け合う遺産が多ければ、平等に遺産を分けられなくても各相続人がそれなりの財産を手に入れることができます。
一方で主な遺産が自宅だけという場合は、わずかな不平等であっても遺産分割協議をまとめることは難しいかもしれません。
遺産が現金だけで分けやすくても相続人間の関係性が薄いと、遺産分けの話し合いが難航することがあります。そもそも遺産分けの話し合いをすることが困難なケースやこれまでの不公平感を相続を機に解消したいという思惑が相続人にある場合も話し合いをまとめるのは難しいでしょう。
やはり遺産分けの話し合いがすんなりとまとまらないのには、それなりの事情があります。
- ①遺産がわけにくい
- ②相続人の人間関係が複雑
- ③既に不公平感が生まれている etc
不動産は均等に分けにくい
遺産が現金なら簡単に均等に分けることができます。
しかし、自宅等の不動産を均等に分けようと思えば、自宅を売却して得た現金を分けない限りは難しく、まして相続人の中の誰かが自宅で暮らしている場合は、売却することが難しくなります。
同じ割合で共有する方法もありますが、複数人で所有しているといざ売却する時は売買が自由にできないのでなるべく一人で所有する方が望ましいでしょう。
かといって、自宅等の不動産を1人の相続人が受け取ることは、他に同じような価値の財産がなければ他の相続人は簡単には納得しないでしょう。
家を売らないと弟に相続分が払えない!
私たち夫婦は、数年前から父名義の家で両親と同居していました。最近、父が亡くなりましたが、私は母の面倒を見ながら今後もこの家に住むつもりでした。
ところが、父の葬儀が終わってしばらくした頃、弟が自分の分け前(法定相続分の4分の1)を強硬に要求してきました。私と母は今後もこの家で暮らしていきたいと考えていますが、父の主な相続財産は自宅だけなので、弟へ相続分を支払うためには自宅を売却するしか手はありません。

遺産が分けにくい不動産の場合、「誰に相続させたいのか」を遺言書で明確にしておくことが残された家族への思いやりになります。
子供には遺留分があるため、財産が自宅のみであれば、完全には遺言書のとおりにならないこともありますが、故人の意思を明確に示しておくことで、相続人が財産の分け方を納得することにつながります。
不公平なく均等に分けられなくても、相続人が納得できる理由があれば、大切なご家族がもめずに済む可能性があります。
遺産分割の3つのポイント
遺産分割をスムーズに進めるために十分に検討しなければならないポイントをおさえておきましょう。
①相続する割合はいくらか?
仮に3人の子どもが相続人の場合は、原則は3分の1ずつ同じ割合で相続しますが、「同居して親の面倒をみてきた」、「介護をした」といった事情があれば、同じ割合で分けることに納得いかない場合もあるでしょう。
また、相続人の中に被相続人から生前贈与や遺贈を受けている方がいる場合に、現在ある遺産のみを対象として、同じ割合で遺産を分けたのでは平等とはいえません。
②誰が遺産分割協議に参加するのか?
相続人の中に、認知症で判断能力が十分でない方や行方不明の方がいて相続人本人が遺産分割協議に参加できない場合は、成年後見人、不在者財産管理人などの代理人を選任して遺産分割協議を行うことになります。
また、法定相続人のほかに、包括受遺者・相続分譲受人がいれば遺産分割協議の当事者となります。

③どうやって遺産を分けるのか?
遺産分割の方法で分かりやすいのは、各相続人がそれぞれ遺産を受け取る現物分割です。
簡単に分けることのできる現金なら問題ありませんが、不動産などの場合、相続人の数だけ遺産があるのか、また同じような価値の遺産なのかなどを検討する必要があり、簡単にはいかないことが多いものです。
現物分割の他に、遺産を現金化して分ける換価分割があります。現金化といっても例えば自宅を売却する場合は、自宅に相続人などの誰かが暮らしているならば難しいでしょう。
また、代償分割といって、例えば自宅は長男が受け取る代わりに、長男が他の相続人に相続分に見合う対価を支払うという方法もあります。
分割方法 | 方法 | 具体例 |
---|---|---|
現物分割 | 不動産、預貯金、株式などの 遺産を各相続人がそれぞれ 受け取る方法 | 自宅は長男が、 預貯金は次男が、 株式は三男が受け取る |
換価分割 | 遺産を売却して その代金を各相続人で 分ける方法 | 自宅を売却して その代金を 子供3人で分ける |
代償分割 | 受け取る遺産の 価格の差を埋めるために、 対価を支払う方法 | 長男が1,500万円の価値の 自宅を受け取るかわりに、 長男が次男、三男に それぞれ500万円ずつ支払う |
話し合いがまとまらなければ・・・
相続人だけで遺産分割協議がまとまらなければ、家庭裁判所に調停を申し立て、第三者を交えて話し合うことになります。
調停で話し合いがまとまらなければ、審判に移行し、裁判所の判断にゆだねることになります。ただし、審判までいったとしても、結局は法定相続分で分割することになる可能性もありますし、時間や費用もかかります。
最悪の場合、争いが元で人間関係が修復不可能になることもあります。

コラム|一般家庭で相続争いが増加
「相続争い 一般家庭ほど」
という見出しで日経新聞に司法統計の記事が出ていました。
「一般家庭ほど」どうなのか?というと。
5千万円以下の遺産をめぐる相続争いが増加している。今年の1~9月に解決した相続争いのうち遺産5千万円以下のケースは全体の約8割を占め、比率は過去10年間で5ポイント高まった。年間の件数も10年間で5割増え、件数がほぼ横ばいの遺産5千万円超とは対照的だ。
というように、一般家庭ほど相続争いが増えているということです。
理由として考えられるのは、相続がメディアで取り上げられる機会が増えたことで、相続する側の権利意識が高まったことや財産が少ない人ほど遺言や生前贈与といった相続対策をしていないことが背景にあると記事はまとめています。
一般家庭ほど相続争いが多いのか?、これはどうでしょう?
確かに、データを見ると遺産5千万円以下のケースで相続争いの約8割を占めていますが、そもそも母数も多いだろうと思うので、相続争いの起こる確率は遺産5千万円超と差があるのかはわかりません。
ただし、母数が多いだけに「うちは財産が少ないから相続争いなんて関係ないよ」と相続対策(遺言や生前贈与)をしておかないと、今後はさらに増えるのは想像できますよね。
コラム|まさに争族ですね。。
週刊ダイヤモンド8/11・18では増税の特集も組まれていますが、ここ数年、週刊ダイヤモンドと東洋経済の相続特集を追いかけている身としては、それほど目新しい内容はなかったように感じました。
しかし、表紙に「もめる相続」とあるように「芸能人相続事件簿」と題した漫画家の江川 達也氏のインタビューは壮絶すぎて何回も読んでしまいました。
インタビューでは、江川氏が兄との13年におよぶ相続トラブルを告白しています。
仕事柄、依頼者の言い分を100%信じて行動することは避けるべきという頭があるので、相手方というかお兄さん側の言い分を知らずして、この記事に書かれていることがすべて真実であると鵜呑みにしてはいけないとは思いますが。
仮にこのインタビューに書かれていることが全て事実だとすれば、壮絶すぎます。
財産があるからこその揉めっぷりというのか、実の兄から「カネをよこさないなら殺す」と脅されたりと、身の危険を感じるような脅迫を受けていたようで、家族内の相続トラブルの域を超えてしまっているような気がします。
また、お父さんの遺産をめぐる相続トラブルということですが、お父さんの生前に、江川氏が兄から理由もなく数十億円に上る請求を受けていたとか、相続とは直接関係のない、まさに争う家族の争族なのかもしれません。
江川氏いわく、争族の原因は相続人だけではなく、相続人の配偶者やその親族までも含んだ問題になってしまうことのようです。
とても説得力がありますが、僕はそれに加えて財産が多すぎることがトラブルに拍車をかけるのは間違いないと感じました。
コラム|どうにも腑に落ちない話
「芸能人相続事件簿」では、遺言の存在が相続の明暗を分けたという見出しで、漫画家の江川達也氏が兄と壮絶な争族になった一方で、女優の萬田久子氏の相続は遺言があった可能性が高く、争族を回避することが出来たようだと紹介されています。
これが少し気になる内容だったので、僕なりの見解を整理してみます。
萬田さんの内縁の夫の100億円以上ともいわれる遺産の行方がどうなるのかという話なのですが、相続人は子供だけでいたってシンプルな話かと思えば、子供達5人の関係がやや複雑、いや相当複雑なわけです。
文章では分かりにくいと思われるので図にしてみました。5人の子供のうち2人が非嫡出子で法定相続分は次の通り。

遺産の一部である時価1億円以上といわれる目黒の土地が既に相続による所有権移転登記がされていて、しかも相続人が取得した持分が法定相続分とは異なるようです。
子供達が遺産分割協議をまとめたという可能性は低いだろうことから、比較的早い段階で相続登記が済んだ理由としては、遺言があった可能性が高いと記事はまとめています。
確かにすんなり話し合いがまとまるような遺産額、そして人間関係ではないように思えるので、遺言があったのかもしれませんがすぐに売却するにしても不動産をその5人で共有するのはどうなんでしょう?
5人が売却手続きに関与しなければいけないのは、なにかと面倒の元。
というか遺産が100億円以上もあるなら、共有などと面倒なことをせずにそれぞれに別々なものをあげる遺言を作る方がベターだと思うのですが。
1億円の土地といっても遺産総額の100分の1ですからね。
仮に話し合いで土地の持分を決めたとしても、5人で共有するような結果になるとは到底考えられないわけで、どうも腑に落ちない話なのでした。