相続(遺産分け)をスムーズに進めたいと思ったときに読むページ

はじめに
大切な方が亡くなったというのに、悲しんでばかりはいられないほどやらなければならないことが次々に発生します。
「なにから手をつければいいのかわからない」とお困りの方も多いのではないでしょうか。中には期限がある手続きもあるため先送りにするだけでは解決しません。

本記事では相続手続きの中で、亡くなった方の遺産をどのように分配するのかという(遺産分け)の手続きについて解説します。
相続(遺産分け)手続きの流れ
一般的に葬儀などの最後のお別れがすめば、次は遺産分け手続きに取り掛かることになります。遺産分け手続きは遺言書の有無で大きく異なります。
- ①遺言書がある
- ②遺言書がない
①遺言書があれば、原則は「遺言書」の指定どおりに遺産を分けることになります(指定相続)
②遺言書がなければ、法が定める基準(法定相続)で分けることになります。ただし、各相続人が何を受け取るかについては、割合でしか定められていないため、相続人全員で誰が何を受け取るのかについて協議し、合意をする必要があります。この話し合いを遺産分割協議といいます。


【遺産分けの基本ルール】ブログで相続セミナー|初級編
一家の大黒柱であるナミヘイさんが亡くなりました。ナミヘイさんの遺産の行方を遺産分けの基本ルールを踏まえながらみていきましょう。あのご家族とは無関係ですので、イメージが壊れた、アニメと違うといったクレームはご勘弁ください。

相続(遺産分け)手続きの具体例
遺産分け手続きをイメージしやすいように事例を元に解説します。亡くなった方が遺言を残していなかった2つの事例を用意しました。よくある一般的なケースと手続きが困難になりそうな少し込み入ったケースの2つです。よくある質問を通して理解が深まるようにQ&A形式でまとめました。
①遺言書の有無の確認
まずは、亡くなった方が遺言書を作成していたかどうかを調べましょう。
ご自身で保管されていた場合は、通帳・自宅の権利証などと一緒に保管している場合が多く、机の引き出し・仏壇・金庫などが保管場所として考えられます。また、身の回りではなく貸し金庫に預けていることやご家族以外の親しい知人や司法書士・弁護士などに預けられていることもあります。
2020年7月以降は自筆証書遺言が法務局で保管されている可能性があります。

夫婦で遺言を書いて法務局に預けてみた|自筆証書遺言書保管制度
今回の改正の柱は遺言書の作成促進でポイントは2つです。①自筆証書遺言の書き方のルールが緩和されたこと、②法務局で自筆証書遺言を保管する新しい制度がスタートしたこと。夫婦で遺言書を書いて保管制度を利用して法務局に預けてみたリアルなレポートです。
公正証書遺言を作成していた可能性があれば、遺言を作成した公証役場名・公証人名・作成年月日等がコンピューターで管理されるシステムが全国で採用されているので、公証役場で公正証書遺言が作成されていなかったか検索してみるとよいでしょう(平成元年以降)
②相続人の確定(遺言書がない場合)
誰が相続人になるのかは戸籍謄本を取得して確認します。
役所で亡くなった方の戸籍謄本を取得すればいいと簡単に思われるかもしれませんが、実際にはかなりの手間がかかります。というのは、相続手続きでは被相続人(亡くなった方)の生まれた時から亡くなるまでの戸籍をさかのぼって漏れがないように取得しなければいけないからです。

生まれた時からの戸籍を集める理由は?【遺言書がない場合】
結婚・離婚・養子縁組・転籍などで戸籍が新しくできたり、他の戸籍へ入ることがあるので亡くなったときの戸籍だけでは相続人全員を把握することができません。そのため遺言書がない場合の相続の手続きでは、亡くなった方の生まれたときから亡くなるまでの全ての戸籍が必要になります。
必要な戸籍謄本等をすべて取得できたら、それをもとに相続関係のわかる図を作成しておきましょう。

取得した戸籍謄本は、不動産や預貯金・株式の名義変更のたびに法務局や金融機関などへの提出をそれぞれ求められるので、提出先が多い場合は法定相続情報証明制度を利用して「法定相続情報一覧図の写し」を法務局で取得しておくことをおすすめします。
※戸籍上は相続人であっても、相続放棄をした人、民法が定めている相続欠格事由(相続に関する遺言書を偽造、変造、破棄、隠匿した場合など)に該当する人や、被相続人に対し虐待をしていた等の理由で推定相続人廃除の審判がされた人は相続人とはなりません。ご注意ください。
③遺産の確定
ひとくちに遺産といってもさまざまなものがあります。
現金や預貯金、不動産はもちろん、株式などの有価証券、被相続人(亡くなった方)が債権者になっている貸付金などの債権、貴金属や骨董品などの貴重な動産など見落としがないように調査をする必要があります。また、忘れてはいけないのが借金等のマイナスの遺産です。亡くなって時間がたってから多額の借金が発覚することもあるため、しっかりと調査しておく必要があります。

遺産の調べ方と注意したいこと
④相続の承認・放棄の手続き
相続財産(遺産)には、プラスの遺産だけでなく、マイナスの遺産もあります。場合によっては、マイナスの遺産の方が多くなることもあるでしょう。
相続人は被相続人(亡くなった方)の相続財産を承継(相続)するのか、放棄するのかを選択することができます。
遺産を確定させ、その価値を把握することで、プラスとマイナスの遺産を比較し、相続(単純承認・限定承認)をするのかあるいは放棄をするのかを判断しましょう。
ただし、相続が開始したことを相続人が知った日から何もせずに3ヶ月が過ぎると、自動的にプラスの遺産もマイナスの遺産も全部相続(単純承認)したことになってしまいますので、限定承認または相続放棄をする可能性がある場合は注意しましょう。事情によっては3ヶ月の熟慮期間を延長してもらえることがあります。

限定承認は非現実的!?
限定承認とは、相続したプラスの遺産の中から、マイナスの遺産を支払って精算するというもので、相続人が自分の財産を持ち出して支払う必要がありません。また、マイナスの遺産があるからといって相続放棄してから、後でプラスの遺産の方が多かったことが判明した場合に、悔しい思いをすることもありません。
しかし、相続が開始したことを相続人が知った日から3ケ月以内に家庭裁判所に相続人全員で申述する必要がありますし、申述の際は、遺産目録を作成しなければなりませんので、手間がかかります。
また、債権者のために官報に公告をしたり、返済のために遺産を処分したりする必要があり、これらの手続きを弁護士に依頼すれば費用もかかります。最終的にプラスとなるのか、プラスであってももろもろの費用がかかれば、ほとんど手元に残らない可能性があるので、結局はプラスマイナスを見極めて、単純承認をするのか相続放棄をするのかを選択したほうが簡単かもしれません。
⑤遺産分割手続き(遺言書がない場合)
ここまでくれば、遺産分割手続きの事前準備としてこういった内容がはっきりしていると思います。
- 相続人は誰か?
- 遺産は何か?
- 遺産はいくらか? etc

遺産分割とは?
遺言書がなければ相続人全員で誰が何を受け取るのかについて協議をし、合意をする必要があります。この話し合いを遺産分割協議といいます。話し合いがまとまりにくい理由やスムーズな遺産分割をする上で重要になる3つのポイントを解説します。

マイナスの財産は遺産分割不要!?
遺産分割というと、不動産は誰がもらうとか、預貯金は誰がもらうとか、どうしてもプラスの財産をどう分けるのかということに目がいきますが、忘れちゃいけないのがマイナスの財産。最近は不動産といってもマイナスの財産になりえるし、誰も相続したくない、いわば“負の遺産”と言わざるを得ないケースがあります。
⑥相続財産の名義変更手続き
遺産分割協議がまとまり、誰がどの遺産を受け取るのかが決まれば、不動産であれば名義変更の手続き(相続登記)、預貯金であれば名義変更または払戻しなど遺産分割協議書に基づき遺産の名義変更を行います。
不動産の名義変更に必要となる書類等
- 被相続人(亡くなった方)の生まれた時から亡くなるまでの戸籍・除籍謄本等
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人の住民票の写し
- 遺産分割協議書および印鑑証明書
- 固定資産税の評価証明書 など

相続(遺産分け)の流れと手続き費用について
登記の専門家である司法書士が関与することで、必要な戸籍は見落としなく整い、名義変更に欠かせない遺産分割協議書などの専門的な書類は誤りなく確実に作成することができます。遺産分け手続きの流れと当事務所でお手伝いできる内容をご紹介します。相続登記の費用・お申込みはこちらから。

とりあえず「共有」にするのはもったいない!
共有にすると揉める火種になるというのが不動産を共有することをおすすめしない最大の理由ですが他にも理由があります。それはもっと単純な話で、将来的に土地を分けて(分筆)、共有状態を解消するつもりなら、とりあえず共有の相続登記をするのは手間と費用が余計に掛かってしまうからです。
預貯金の名義変更に必要となる書類等
- 被相続人(亡くなった方)の生まれた時から亡くなるまでの戸籍・除籍謄本等
- 相続人全員の戸籍謄本
- 遺産分割協議書および印鑑証明書
- 各金融機関所定の依頼書
- 通帳・印鑑 など

40年ぶりの法改正で遺言書・相続が変わる!
40年ぶりに相続に関するルールが変わりました。わかったつもりになっているみなさんの相続の知識は既に古いものかもしれません。わかりやすさを優先して、できるだけ専門用語を使わずに今回の改正のポイントをまとめました。
⑦相続税の申告・納付
遺産分けの最後の手続きは相続税の納付です。実際に相続税を納めなくてはならないケースは死亡者数の数パーセントですので、必ずしも相続税を納めなければ ならないわけではありません。
ただし、平成27年1月1日以降に亡くなられた方ついては相続税の仕組みが大きく変わり、今まで相続税がかからないと思われていた方でも相続税がかかる可能性が出てきました。
具体的には相続税の基礎控除が次のように変わりました。相続人3人の場合、これまでは被相続人の遺産の総額が8,000万円を超えていなければ相続税を納める必要がなかったのに、改正後は4,800万円を超えていれば相続税を納めなければならないことになります。
相続の時期 | 基礎控除額 | 相続人3人の場合 |
改正前 (平成26年12月31日までの相続) | 5,000万円 + 1,000万円×法定相続人の数 | 5,000万円 + 1,000万円×3人=8,000万円 |
改正後 (平成27年1月1日以後の相続) | 3,000万円 + 600万円×法定相続人の数 | 3,000万円 + 600万円×3人=4,800万円 |
配偶者控除・障がい者控などの仕組みはありますが、まずは遺産の額(課税価格)が基礎控除の額を超えているのかを簡単に計算してみましょう。
課税対象になれば相続税は相続が開始してから10ヶ月以内に申告、納付しなければいけません。

相続相談会を開催しています
士業で結成した相続の専門家チーム「大阪の相続あんしんナビ」では各種相談会を開催しています。相続税に関するご相談は税理士が同席する合同相談会をぜひご活用ください。
⑧遺言書の確認および家庭裁判所の検認
遺言書を見つけたらまずは遺言の種類を確認しましょう。
公証役場で作った公正証書遺言ならそのまま開けてもかまいません。ただし、封印のしてある自筆証書遺言の場合は、家庭裁判所の検認手続きが必要になります。検認というのは家庭裁判所の係官立ち合いで遺族が遺言書の中身を確認することです。
公の場で確認することで、偽造等を防止します。偽造のおそれはまったくないという場合であっても、遺言書に基づき遺産の名義変更手続きをする際には、裁判所の検認済証明のある遺言書の提出を求められるので、面倒でも検認手続を省略することはできません。※自筆証書遺言書保管制度を利用して法務局で保管されている自筆証書遺言は検認手続きは不要です
⑨遺言書による指定分割の手続き
遺言書に基づき、不動産の名義変更(相続登記)、預貯金、有価証券等の名義変更を行います。
⑩遺留分侵害の有無の確認
遺言書があれば、その内容に従うのが原則です。ただし、遺言の内容が遺留分を無視したものであれば、遺留分を侵害された相続人は、遺留分を取戻す(減殺|げんさい)ことができます。

遺留分を無視して書いた遺言書の本当の怖さ。
遺言書のせいで他の兄弟から自宅を差し押さえられてしまったXさん。悲惨すぎる相続が起きた背景には2つの大きな事情がありましたが、遺留分を無視して書かれた遺言書の怖さを目の当りにすることになりました。遺言書が火種にならないように遺言書を書く上で最低限押さえておきたい遺留分の基本的な内容をお伝えします。