家業を継いだものの赤字続きだから今の商売をやめて新しい商売を始めようか、そんな選択を迫られることもこのご時世では珍しくありませんよね。
例えば祖父の代から印刷業を営まれていたXさんが多死社会の到来を見込んで遺品整理業を始めることにしたようなケースをイメージしてみてください。
印刷業と遺品整理では全くの畑違いなので、そもそも遺品整理業のノウハウがなければ難しいというのは容易に想像できます。それに遺品整理の会社の名前が「○○印刷株式会社」じゃピンとこない。それに心機一転、会社名(商号)を変えたいというニーズもあるでしょう。
また不要な物を処分するだけではなく、買い取りをするなら古物商の免許を取らないといけないし、その前提として「中古○○の売買」を会社の目的に加えるなど登記を変更しておかなければいけないということもでてきます。
中にはこれを機に取締役会や監査役も廃止して役員は自分ひとりで再出発したいといったニーズもあると思います。新規事業を始めようとすると会社の登記だけをみてもそのままでは始めることが難しい場合がほとんどかもしれません。
登記の内容をいろいろ変更する手間を考えていたらイチから新しい会社を作った方が早いんじゃないの?なんて思ってしまいますが、既に株式会社がある場合で新規事業を行うケースについて登記を中心とした手続きをまとめてみました。
株式会社は資本金1円から作ることができますが、登録免許税や定款認証の費用などで最低でも20万円以上かかります。一方で既にある会社の取締役会や監査役を廃止すること、商号や目的を変更する場合も変更する内容に応じて登録免許税が必要になります。
既にある会社の資本金がそれなりに大きくて、もし会社の見栄えを気にするなら既にある会社を活用するという選択肢も十分にあります。中には引継いだ会社がそのまま新規事業を行った方が税務上のメリットが大きいケースもあるでしょう。
しばらく事業をやっていなかったために登記も長い間ほったらかしだったり、むしろ会社をたたもうと解散の決議をしてその登記がされている場合があるかもしれません。
解散の決議をしていたらその会社で新規事業を行うことはできないと思われるかもしれませんが、そんなことはありません。解散の登記がされていても清算手続きが完了していなければ会社を継続することも可能です。
まずは既にある会社の登記内容や会社の状況を正確に把握した上で、新規で会社を作る場合と既にある会社の登記を整える場合の手間と費用を比べて判断するのが賢明と言えるでしょう。
相続した資産価値のない土地や建物を“負”動産といったりするようですが、家業も同じようなことが言えそうですね。ただし使い方によってはうまく活用できる場合もありそうです。
余談ですが、口座開設をしてくれる若者を獲得するために地方銀行がカフェをオープンしたという新聞記事を読んでいると、さらっとこんなことが書いてあって驚きました。
「金融庁は25年3月期には全国の地銀の6割が本業で赤字になると試算している」
あくまでもさらっと書いてあったので、「どこまでが本業なのか?」「どういった条件での試算なのか?」詳細はわかりませんが銀行が本業で赤字になる時代が来るなんてこと想像したことがありますか?ないですよね?
といいながらATMなどの手数料が売上のほとんどを占めるセブン銀行があるくらいなので、いわれてみれば納得できる試算結果です。
銀行でさえ事業の見直し、方向転換を迫られる時代であれば中小企業の場合その必要性は銀行の比ではないはず。
・・・と他人事のようなことを言っていますが、事業の方向転換を迫られているのは僕ら士業の方が切実な気がする今日この頃。ネットに情報が溢れている時代なので登記や相続など手数料を払って司法書士に依頼せずに自分で調べてやってみようという方が確実に増えているように感じます。
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司法書士・行政書士 伊藤 薫