間違ってこんな自筆証書遺言を書いていませんか?

遺言書講座

書いた人の想いを実現することができる遺言書【使える遺言書】をまとめるのは難しい一方で、使えない遺言書ははっきりしています。

例えば、ご夫婦が1枚の用紙に連名で書いた自筆証書遺言は、内容については問題がなくても無効になります。

無効にならなかったとしても、遺言が争いの火種になる場合や折角、遺言書を書いても実現させたかったものとはまったく違う残念な結果を招いてしまうこともあります。

間違ってこんな自筆証書遺言書を書いていませんか?

遺言書を書こうと思ったときに知っておいて損はない、基本的な誤り・注意すべき点を紹介します。

目次【本記事の内容】

財産を特定できていない遺言

どこの不動産なのか?どこの口座なのか?を正確に記載できていない遺言書があります。こういう遺言書は手続きがスムーズにいかなかったり最悪は遺言書では手続きができない可能性もあります。

せっかく遺言書を書くなら、ひと手間かけて小さなミスもなくしたいですよね。

自宅などの不動産の場合

固定資産税の納税通知書だけではなく、法務局で不動産の登記事項証明書を取得して正確に記載しましょう。

預貯金、株式の場合

通帳や資料を確認して支店名や口座番号などを正確に記載しましょう。

※2019年1月13日から財産目録については、パソコンで作ったり登記事項証明書や通帳のコピーを別に添付する方法も認められることになりました。

財産の書き漏れがある遺言

遺言書を書くときに書き忘れてしまったというよりは、財産の存在自体を忘れてしまっている、存在すら知らなかったケースが多いように感じます。

  • 自宅の土地に隣接している道路部分
  • 遠方にある相続しただけの田畑・山林など
  • 相続後、名義変更をしていない土地や建物
  • 引っ越しや転職・退職で使わなくなってしまった口座 etc

遺言書に書かれていない財産は誰のもの?

私の死後、家族が相続でもめないようにと、3人の子供に財産を平等に分配する内容の遺言書を作成して、相続の準備をしていました。
遺言書を作成した後に自宅を購入していましたが、遺言書の内容を見直すことはなかったために、遺言書に書かれていないその自宅をめぐって子供たちが争うことになってしまいました。

書き漏れに限らず、遺言書に記載されていない財産があれば、それについては相続人全員で遺産分割協議をする必要があります。

せっかく遺言を書くならすべての財産について指定をするべきです。記載していない財産が元でトラブルになることもあります。

例えば、ご自分の誕生日や年始など定期的に遺言書を見直すことが有効です。

また遺言書を作成する時に「その他一切の財産を長男に相続させる」といった記載があれば、その後、増えたり、発見された財産は遺産分割協議をしなくてもスムーズに長男が引き継ぐことができます。

遺言書に財産の書き漏れがあってトラブルに

自分の名義になっている不動産を忘れてしまうことはあまりないと思います。

ただし、遺産分割で相続したものの名義を変えずにそのままにしている不動産、そもそも遺産分けの話し合いすらしていない不動産があれば、その旨を遺言書に書いておく、もしくは別途手続きをしておかないと結果的に書き漏れと同じ状況になります。

仮に二代前から名義変更をしていなかった不動産の名義変更をしようとすると、想像以上に相続人が増えていることがあります。

中でも相続人が兄弟姉妹の場合は、相続人の数が爆発的に増えてしまう可能性があるので、遺言書を書くときは財産の書き漏れがないかどうかは念には念を入れて確認しましょう。

訂正の仕方があいまいな遺言

こうもパソコンに頼りきった生活をしていると、手書きをすることが稀です。

「あ!間違えた」なんて宛名書きで住所を間違えようものなら、書き直すのが面倒なのでなんとかうまくごまかせないかと思ってしまいますが、みなさんはそんなことはありませんか?

自筆証書遺言はその名の通り、財産目録を除く全文を自筆で書かなければいけません。

そのため「あ!間違えた」とか、「気が変わった」場合に自筆証書遺言を訂正加筆するにはどうすればいいのでしょうか?

民法では下記の通り自筆証書遺言の訂正加筆の方法は厳格に定められているため、このルールに従わないと、最悪の場合は遺言自体が無効になってしまうことがあります。

(自筆証書遺言)
第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

ルール通りに正しく訂正できているかどうかを悩むようなら、面倒かもしれませんがもう書き直すことをお薦めします。書き損じをなんとかごまかせないかなんてことは、くれぐれもお考えにならぬよう!

相続の明暗を分けたのは一本の線

遺言書は何度でも新しく作り直すことができます。訂正することもできますが、ルールに則った方法でなかったばかりに子供達が最高裁まで争うこともあります。

裁判で白黒ついたわけですが、結局のところ遺言者の真意は不明ですよね。。

赤い斜線が引かれた遺言は有効か?

全面に赤いボールペンで斜線が引かれた遺言(自筆証書遺言)は、遺言者が遺言の内容を撤回する意思があったのか否かを巡って、長男と妹が争った裁判で最高裁の判決が出ました。

新聞記事でも取り上げられたので目にされた方も多いかもしれませんね。

遺言の内容は長男に財産の大半を相続させるというものだったので、お父さんの遺した遺言が有効か無効になるのか次第で、兄妹の相続財産の取り分は大きく違う結果になります。

赤いボールペンで斜線が引かれた遺言は「無効」と判断されました。

全面に赤いボールペンで斜線を引いているのだから、これは撤回する意思表示と考えるのが一般的な感覚かもしれませんが・・・

何故争いになるのかというと、民法では遺言の撤回は焼却、破り捨てるといった、故意に『破棄』したときと定められているので斜線を引くことが『破棄』にあたるのかという点がポイントになります。

一方で、自筆証書遺言を訂正するには変更した箇所を特定して変更した旨を書いた上で署名と押印が必要になるので、赤い斜線が引かれているだけの今回のケースでは変更に当たるのかという点が2つ目のポイントです。

結論からいえば、形式的なことよりも、赤い斜線を引いたという行為を遺言者が遺言の内容を撤回する意思があったと重く評価して最高裁は無効と判断したということになります。

遺言を書いたお父さんは2002年に亡くなっているので、亡くなってすぐに揉め事が起きたとしたら、最高裁で判決が出るまで実に13年。

これだけの年月を裁判に費やすのは相当なエネルギーが要りますよね。父さんも一本の線のせいでここまでの揉め事に進展するとはまさか思いもしなかったでしょう。

そもそもこの遺言は長男に相当手厚い内容なので、赤い斜線が引かれていなかったとしても、すんなり事が進んだかどうかはわかりませんが、やっぱり遺言を作るなら公正証書遺言に限ると改めて感じる判決でした。

というのは公正証書遺言の原本は公証役場で厳重に保管されているので、遺言が破棄されたり、紛失してしまうことがないからです。

遺言執行者が不適切な遺言

遺言執行者(いごんしっこうしゃ)とは、遺言の内容を確実に実現させるために必要な手続きなどを行う人です。

  • 遺言執行者を決めておくかどうか?
  • 誰を指定するのか?

は、遺言書を書く人が決めておくことができます。

遺言書を書いたときにはベストな選択だと思っていても、結果的にベストではなかったと思うケースもありますが、そもそも他の人を選んでおけば良かったのにと思ってしまうケースもあります。

少なくとも自分が亡くなるときに遺言執行者として役目を果たしてくれる可能性が低い人は避けるべきです。

信頼する大先輩よりもできるだけ若い人がいい。

相続のご相談で遺言を拝見した時のことです。公正証書で作られた遺言で、遺言執行者が定められていました。

特に問題はなさそうでしたが、遺言で指定した遺言執行者は既に亡くなられたとのこと。

相続が発生してから十数年が経っていたので、遺言執行者が亡くなっていても仕方ないかと思いましたが、よくよくお話しを伺うと亡くなったXさんよりも先に遺言執行者が亡くなっていたようです。

Xさんは信頼を寄せていた大先輩に、もしもの時の遺言執行者をお願いしていました。

大先輩なのでXさんより当然ながら年齢はかなり上。Xさんの死期が差し迫ってたときに作った遺言というわけではなさそうでした。

全ての遺言に遺言執行者が必要ではありません。Xさんの遺言内容は、必ずしも遺言執行者が必要ではなかったので問題はありませんでした。

  • 認知
  • 推定相続人の廃除・取消

もしも遺言内容にこれらが含まれていれば、遺言執行者だけが執行できるものなので、遺言執行者が亡くなった時点で遺言を作り直して改めて遺言執行者を指定するか、遺言者の死後に家庭裁判所で別の人を遺言執行者に選任してもらう必要があります。

この2つの遺言内容に限らず、相続人の協力が得られにくい場合には遺言執行者がいるとスムーズに執行されることがあります。

もしもの時に年齢は関係ないとはいえ、若い人の方が確率的には長生きするでしょうから、遺言執行者は自分よりもある程度若い方を指名しておくことが無難です。

個人と違って亡くなることのない信託銀行などの法人を遺言執行者に指定する方法もあります。

少なくても大先輩に遺言執行者をお願いするのはやめましょう。

ちなみに若いほどいいのか?というと、次のように未成年者は遺言執行者になることはできません。

(遺言執行者の欠格事由)
民法第千九条  未成年者及び破産者は、遺言執行者となることができない。

いつの時点をもって未成年者か否かを判断するの?

  • 遺言を書いた時?
  • 相続開始の時(遺言者が亡くなった時)?

遺言の効力がいつ発生するかを考えると、遺言者が亡くなった時なので、未成年者を遺言執行者に指定した場合でも、相続が開始した時にその人が未成年者でなくなっていれば遺言執行者になることができます。

例えば、生まれたばかりのお孫さんを自分の遺言執行者に指定したとしても、それから20年長生きすればそのお孫さんが遺言執行者になることができるので問題はありません。

ちなみに未成年者は遺言執行者(公正証書遺言の証人にも)になれないと聞くと、遺言も書くことができないのだろうと思うかもしれませんが、実は未成年者でも遺言を書くことはできます。

(遺言能力)
民法第九百六十一条  十五歳に達した者は、遺言をすることができる。

15歳なので高校生でも遺言を書けるわけです。

最近、高校生の娘が部屋に籠って机に向かっているから気になって、覗いてみたら一生懸命、遺言を書いていたなんてこともあるかもしれません。しかも最近できたばかりの彼氏に全財産をあげるなんて内容だったりして。

もしそんなことがあったら世のお父さんはかなりショックですよね。。

有効性に疑問がある遺言

遺言は偽物じゃないの?

私の父は、長男である私には自宅を、弟には現金100万円を相続させる内容の自筆証書遺言を残して亡くなりましたが、自宅と現金100万円では価格の差が大きいため、遺言書の内容が不利な弟が、遺言書を作成した当時、父が認知症だったため、意思能力が不十分で遺言は無効だと主張し、遺言書の有効性をめぐって裁判になりました。

遺言書を作成した時に認知症の疑いがあったことに限らず、筆跡が違うなど、遺言書の内容が不利な人が遺言書の有効性に疑いをかけることがあります。

自筆証書遺言は手軽に作成できますが、自分1人で作成できるため、作成時に十分な意思能力があったのかどうかは体裁や内容から推定するほかありません。

その点、公正証書遺言の場合は、公証人が遺言者の意思能力に問題があると判断すれば、医師の診断書や立会いも要求できるので、遺言時の意思能力が争いの原因になる可能性は低くなります。

弟が遺言書が無効だと主張してきてトラブルに

不安があれば活用を検討しましょう

こういう遺言書を書くと失敗しますよ!

という視点から相続トラブルの火種になりそうな遺言書を紹介しながら、逆説的に【使える遺言書】とはどういうものなのかを見てきました。

ご紹介した遺言書に該当しなくても、それが確実に使える遺言書なのかどうかは難しいところです。

財産や相続人の状況は様々です。使える遺言書はこういうものですと画一的に言えるようなものではないので、どうしても限界があります。

自筆証書遺言は自分ひとりで作ることができるので手軽ですが、その反面、無効になったり、無効にならなくても希望とは違った結果を招く恐れがあります。

もし不安を感じるようなら公証役場や相続の専門家に関与してもらって作成する方が確実です。

  • ①公正証書遺言を作成する
  • ②遺言内容を専門家に相談する

2020年7月10日から法務局で自筆証書遺言を保管してくれる制度がスタートしました。自筆証書遺言の保管場所について不安がある方は活用を検討されることをおすすめします。

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